薄暗くて人で溢れてるライブハウス。
高校生バンドが集まるイベントに出ないかって知り合いの先輩に誘われたのは、つい1ヶ月前のこと。演奏の練習も頑張ったし、中学生だとバレないように見た目にも精一杯気を使った。


そんなライブの出番を終え、観客側で他のバンドを見ていたとき。


ある女の子が目に止まった。
ライブハウスの一番後ろの角の壁に寄りかかって、ひとり携帯をいじってる。
明るくて茶色の長い髪をクルクルと巻いて、短いスカートにキャメルのセーター。アニメのキャラクターみたいな高い声で喋り出しそうな可愛い顔。


まさしく!!!
俺の理想のJK!!!


「あっあの…どこかのバンドのお知り合いですか?」

「えっ?あ…はい」


かっかわいい!でも!!!


「声、低めですね…」

「は?え?わたしですか?」

「あっ、ごめんなさい、見た目がすごく可愛かったので、勝手にアニメ声なのかなーって想像しちゃってて」

「ああ…なんかすいません(笑)ていうか、さっきユウキさんのバンドでドラム叩いてた方ですよね?わたし、ユウキさんの知り合いで来たんです」


ユウキさんとは、俺をバンドに誘ってくれた俺の2こ上の先輩だ。共通の知り合いがいるなんて、こんな偶然あるかよ!


完全に俺は舞い上がっていた。


「そうです!ユウキさんの知り合いなんですね、お名前聞いてもいいですか?俺は、神崎シンタロウっていいます!」


「…サクラ。森サクラです」


「サクラ…さん」

「ユウキさんと同い年ですよね?わたし高1なんで、さん付けで呼ばなくていいですよ、サクラで」

「あ…実は俺、中3なんですよ。ユウキさんに誘って頂いて潜り込んだんですけど」

「えっ!?中3なの?わたしより年上だと信じて疑わなかったよ〜(笑)」





彼女はそのとき初めて笑った。
目を三日月のかたちにして、小さな口をにかーってさせて。


たったこんな一瞬で、
俺はまだなにも知らない彼女に
言い表せない気持ちを抱いた。