_選挙当日。
あの日、魁王先輩に言われたことを思い出して、深呼吸をする。
『いいか?特に、演説内容は指定しない。どんな内容のものを書いてきても、ほとんどおーけーを出すつもりでいる。けど、よく考えろよ?お前らは、これから、人の上に立つかもしれない存在なんだ。そこをよく弁えて俺のもとに演説の紙を持ってこい』
凜とした表情で真剣に生徒に取り組んでほしいという気持ちを伝える魁王先輩。
皆が皆、その気持ちを汲んだのかは知らない。けれど、少なくとも僕は、先輩のその気持ちを無駄にしたくないと思った。
だから、今日はこうして、きちんとした服装で、きちんとした髪型で。
あとは、気持ちが整えば完璧なのに、どうもそわそわして落ち着かない。
「うわお。気合入ってるねー、八王子くん」
急に後ろから声が掛かる。振り向くと、其処には案の定、篠崎くんがいた。
篠崎くんは僕と違って、緊張なんて全くしていない様子で。
へらへらと笑って、周りの先輩達に挨拶していた。
「緊張…しないの?篠崎くん」
「え?俺、今、緊張してるよ?すっごく」
そういうと、彼はまた、へらっと笑った。「あ、そろそろじゃない?」誰かの声が耳に届く。
嗚呼、そうか、そろそろ始まるのか。
よし、結果なんてどうでもいい、…僕の素直な気持ちを、ぶつけよう___。