「今日は…悪かったな。 無理やり遊園地なんかに連れて行って、その上、迷路であんなことになってさ。 ごめんな?」
 しばらく歩いてから、松本くんがそう切り出した。
「え? …いいよ、そんなの。 …思ってたより、楽しかったし」

 ほんとは、『思ってたより楽しかった』どころではなく、

 “ずっとこのまま、時間が止まればいい”

 ―――そんな風にさえ思ってしまうほどだった。

 あたしの言葉に、松本くんは安心した様子。

「なら、いいけど。 …ココアは、しょぼいけど、まあ…その、お詫び? ……うん、まあそんな感じ。 ココア、好きなんだろ?」
「うん。 大好き」

 ――――なんで、知ってたの?

 喉元まで出かかったその質問は、松本くんの横顔を見た瞬間、すっと消えていった。

 そんなの、どうだっていいや。

 あたしのことを思って、松本くんが買ってくれた。

 それで、十分。