電車を降りると、外はすっかり寒く、暗くなっていた。
「今日は、ほんとにありがとう。 迷惑かけて、ごめんね…?」
「いいよ、別に」
松本くんはあたしの言葉に答えながら、駅の自動販売機に向かった。
ポケットから財布を出してお金を入れる松本くんを、あたしは見るともなしに見ていた。
ピッ………カタン。
1本の缶コーヒーが出てきて、チャリン、とお釣りが返却される。
―――と。
チャリン、と再び音がして、松本くんがまた自販機のボタンを押していた。
ピッ………カタン。
今度出てきたのは…あたしが大好きなメーカーの、ミルクココア。
松本くんはしゃがんでそれを取ると、
「…ん」
しゃがんだまま、あたしの方へとココアを差し出してきた。
「あたしに…?」
戸惑いながら聞くと、
「ああ」
何でもないように答える、松本くん。
そして立ち上がると、いきなり、遊園地で買ったクラスへのお土産が入った袋をゴソゴソと探りはじめた。
やがて松本くんが、袋の底から引っ張り出して、
「あと、これも」
とあたしに手渡したのは。
「これ…クレープ!?」
「ああ。 たぶん、里田が食べてない味ばっか、だと思う」
うそ…
なに味を食べたかなんて、自分でも覚えてないくらいなのに。
「どうして…?」
お礼も忘れて尋ねたあたしをチラッと見た松本くんは、ちょっと照れくさそうに両手をパーカーのポケットにつっこむと、夜空を見上げたまま歩きだした。
あたしはギュッとココアの缶を握りしめて、小走りで松本くんの隣に並んだ。