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「…だ! 里田っ!!」

 …誰かが、あたしの名前を呼んでいる。

「おい、里田!!」

 …松本くん…?

「っう…」

 ゆっくり目を開くと、目の前に松本くんがいた。
「ま…松本くん…」
 上体を起こしたあたしを見て、
「里田、大丈夫か?」
 松本くんは、心配そうに言ってくれた。
「う…うん。 でも松本くん、なんでここに…?」
 松本くんは、いつものように上から目線の口調で、でもいつもよりは随分温かい声で言う。

「1時間経っても出て来ねぇから、捜しに来てやったんだよ。 良かったな、フリーパス買っといて」

 ……わざわざ、もう1回入ってくれたんだ。

 あたしなんかのために。

「…ありがとう」

 素直な言葉が、口をついて出た。

「心配かけて、ごめんなさい」

 でも、やっぱりひねくれ者の松本くんは、

「っ…別に、心配なんかしてねぇし。 …閉園時間近いんだから、行くぞ」

 顔をそむけて言い、立ち上がった。

 あたしが松本くんの隣に立つと、

「また迷うと困るから。 ―――ん」

 松本くんはそう言って、あたしに左手を差し出した。

「…ありがと」

 今度はあたしも、ためらうことなく手を握った。