「…で。 なんでここなのよ!」
 松本くんと再び手をつなぎ、引きずられるようにして歩いて行った先は、なぜか迷路ではなく。
「ジェットコースターって…松本くん、乗りたいの?」
「絶叫系は苦手とか?」
 普通の口調で質問を返された。
「や、そうじゃなくて。 迷路、行かないの?」
 当然の疑問に返ってきたのは、
「ん? だって、もったいねーじゃん 」
 当然のように放たれた、
「コイツがよ」
 当然っぽく聞こえる言葉と、
「それって…」
 当然のように見せられた、当然ここにあるべきじゃないもの。
 2枚の、金色の入場券。
 金色ということは、つまり、
「1日フリーパス!?」
「ああ」
 これまた平然と言ってのける松本くん。
「なんでフリーパスなのよ?」
 そんな高いもの買うくらいなら、そのお金でクレープ食べようよ…!
 イライラしてるあたしに構わず、松本くんは悪びれずに答えた。
「カップル割引使ったら、これしか買えなくてよ。 まあ、要は楽しめってことだ!」
 脳天気…。

 3時間後。
「やっぱ最高ーっ!!」
 あたしたちは、またクレープ屋さんにいた。
「…お前、よく飽きねぇな」
「だって違う味だし、美味しいし、クレープ好きだもん!」
 散々振り回されたお返しとばかりに、あたしはクレープを追加注文。
「ちょっ、おま…っ!」
 松本くんの声をスルーして、あたしは運ばれてきたクレープにかぶりついた。
「あーっ、美味しい!」
 きっと今のあたしは、世界一幸せそうな表情をしていることだろう。
 松本くんは、そんなあたしをじーっと見ていたかと思うと、ため息をついて下を向いた。
「それさぁ…全部、俺のおごり?」
 暗い目でそう聞く松本くんに、あたしは笑顔でうなずく。
「うん。 だって、1個だけなんて言われてないもん」
 …じとっとした目で、にらまれた。
 知ーらないっと。
 すると松本くんは、またいきなり立ち上がって、
「もう行くぞ!」
 あたしの手をグイッと引っ張った。
「早すぎ! 待ってよ!!」
 いくら言っても、松本くんはもう聞いてくれなかった。
 ---そしてあたしたちは、ようやく、お目当ての巨大迷路に向かったのだった。