「んーっ、おいしーいっ!!」
 さすが有名店だけあって、すごく美味しい。
 市販のクレープが食べられなくなりそう……いや、たぶん食べるけどさ。
 3つ目のクレープに手を伸ばすあたしを、松本くんが冷ややかな目で見る。
「お前、食べすぎ。 太るぞ?」
「うっ…うるさい! いろんな種類、食べたいんだもん。 これでも我慢してるんだから」
 迷路より何よりクレープ、と譲らないあたしに根負けして、松本くんはまずクレープ店に連れてきてくれた。
 クレープ店の外のベンチに座って、何種類かのクレープを味わう……最高。
 松本くんも迷路も何もかもそっちのけでクレープをほおばるあたしに、松本くんは呆れている様子。
「里田さぁ、何のためにわざわざこの遊園地に来たか、忘れてるだろ?」
 …忘れたくても、松本くんがそこにいたら忘れられない。
 ちょっとでも至福の時を現実から遠ざけたくて、だからあたしは、松本くんをわざと無視した。
 …バシッ、という音は、松本くんがあたしの頭をはたいた音で。
「痛っ!」
「だーかーらー、話聞けっつうの」
 どこまでも上から目線の王子様に、
「はいはい。 迷路に来たことくらい覚えてますよ」
 幼子をあやすような口調で言うと、ますますムッとしたよう。
「じゃあ行くぞ」
 そう言って勝手に立ち上がった松本くん。
「待ってよ!!」
 あたしは慌てて残りのクレープを口に押しこみ、松本くんのあとを追った。
 もっとゆっくり味わいたかった…。