電車に揺られること、30分。
「着いた!!」
 こんな町はずれにあっても、遊園地は遊園地。
 休日のせいか、人が多い。
 特に、カップルが。
 幸せそうだこと…。
「…おい」
 松本くんの不機嫌そうな声に、ボーッとしていたあたしははっと我に返った。
 その目の前につき出されたのは、松本くんの手。
 ………手!?
「えっ!? 何っ!?」
 慌てて聞くと、松本くんは盛大なため息をついた。
「お前って、人の話は聞かない主義か? …土曜日は“カップルデー”っつって、カップルはチケットが半額になるんだって、今、俺が言っただろうが。 だから、手。 つなげ」
 ……聞いてなかったことは、認める。
 でも…でもでもでも!!
「手…つながなくてもよくない…?」
 松本くんは、肩をすくめた。
「ダメなんだとさ。 ほら」
 松本くんが手にしたパンフレットには、そっけない明朝体で『注意』とあった。
『…なお、カップル割引をご利用の方は、手をつなぎ、係員にお見せください』
 ……どういう決まりよ、これ。
 たぶん、今のあたしたちみたいな、カップルでもない人にカップル割引を使われるのを防ぐためなんだろうけど。
 …事態は、悪化している気がする。
「え…あたし、普通の料金でいいよ…」
 あたしが弱々しくもそう言うと、松本くんはつき出していた手をポケットにつっこみながら言った。
「そっかー、残念だなあ。 せっかく、浮いた金でクレープでもおごってやろうと思ってたのになあ」
「クレープっ!?」
 あたしがクレープに目がないってことは有名で。
 …それを引き合いに出すなんて、卑怯だ…。
 絶対に、その手には乗らない!!!
 拳を固め、耐えるあたしに、松本くんはさらに追い討ちをかける。
「ここの遊園地にあるクレープ店、有名な専門店で美味しいらしいぞー?」
 歯を食いしばり、聞こえないフリをする。
 そんなあたしを見て、松本くんは勝ち誇ったように余裕の笑みを浮かべる。
「まあ、その分すっごく高くて、そう簡単に食べられるもんじゃないって聞いたけどな。 あーあ、残念だなあ? せっかく、そんな高くて美味いクレープをおごってもらえる、またとないチャンスだっていうの…」
「ああーっ、もう!!」
 あたしは叫んだ。
「うるさいな…もう…」
 あたしは、
「まったく…」
 ついに、
「つなげばいいんでしょ!!」
 …負けた。
 だって、クレープ…クレープがあたしを呼んでいる!
 松本くんは、「分かりゃいいんだよ」と言いながらポケットから手を出して、
「ん」
 あたしに差し出した。
 ちょっと…いや、かなりためらいながらも、あたしは、松本くんの左手を握った。