「…ん、いや…やっぱり、違うかな。“みんなのことを”ちゃんと見てたんじゃないな。 …一宮のことを、見てたんだ」
…え。
「え、どういうこと…??」
新川くんはあたしの顔を見て、またすぐに前を向いた。
「最初は、何も思ってなかったんだよ、マジで。 だけど…文化祭の準備をしていく中で、いつの間にか、一宮のことしか見えなくなってた。 まあ、つまり……」
新川くんは一旦言葉を切り、立ち止まった。
あたしも立ち止まり、自然と向かい合う。
「…好きです」
新川くんの口から、言葉が紡ぎ出される。
「この映画に一宮が必要だったように、俺にはきっとこれから、ずっと一宮が必要なんだ。だから…付き合ってください」
あたしの目からは、涙がこぼれる。
映画のときに流した、演技の涙じゃなく、心からの、本気の涙が。
「あたし…文化祭準備が始まった頃から、ずっと思ってた…。文化祭が、永遠に来なきゃいいのに、って。そうしたら、ずっとずっと…新川くんのそばにいられるから…。あたしも、新川くんのことが、好きです…っ」
新川くんは微笑んで、あたしをそっと抱き寄せた。
地面には、月明かりに照らされたあたしたちのシルエットが、長く長く伸びていた。
――それはまるで、スクリーンに映し出された映画の一場面のよう。