『慶太郎!ご飯出来たよ!慶太郎!入るよ!』

『ちょ、ちょっとわかったから部屋に入ってこないでよ!入るよってまだ俺がいいって言ってないのに開けるなよ!』

『お前が返事をしないからだろ。寝てるんじゃないかと思ったんだよ。ん?慶太郎!消臭剤は足りてると思う?』

『はあ?知らない。飯でしょ?出てってよ!俺もすぐ行くから』

『タバコって吸ってる人間はわかりにくいだろうけど吸わない人間にはけっこうわかるんだよ。臭いんだよな。俺タバコの臭いって嫌いだし。慶太郎の部屋がタバコ臭いのはなんでだろうね?そこに転がってる消臭剤は効きがよくないのかな?』

『だから知らないって!俺、飯食うよ。ちょ、ちょっと痛いよ!放せよ!バカ!』

『慶太郎!話しがまだ終わってない。タバコを吸っていたのか?お前の部屋で?未成年者の喫煙は法律上も認められてないし俺とのルールでももちろん禁じているよね』

『知らない!吸ってねーよ。窓あいてるから隣の人がベランダで吸ってたんじゃないの?』

『慶太郎!話しをする時は俺の目を見て話すよう何度も言ってるよ。小さい頃からね。それにお前は何も後ろめたい事がない時にはいつも俺の目を見て話してくれるんだけど。どうなんだ?タバコを吸っていたのか?』

『知らないよ!俺じゃねーし!隣の人だろ!』

『嘘をつくと罪は重くなると思うよ。反省する気もないのかな?隣の人って老夫婦なんだけど。それに2人共吸わないよ。俺は引越してきた時に挨拶に行ったし俺が医者だと言ったから何年か前に脳梗塞で倒れてそれからタバコももうとっくに辞めたって話してくれたからね。奥さんの方はまったく吸わないし』

『だ、だから反対の隣なんじゃねーの!』

『そうかな?俺達の右隣りは空室なんだけど。先月引越して行ったのを知らない?このマンションは転勤族が多いみたいで出入りが激しいからね。お前は遊びに出ていたから引越したのを見てないか。慶太郎!もういい加減にしろよ!いつまでとぼける気だ!言い訳はもういいか?それともまだおもしろい言い訳を聞かしてくれるのかな?しかも俺がいるのに部屋で堂々と吸うんだからそれなりの覚悟はあったんだろ?』

『ごめんなさい。でもただの興味本位じゃん!みんな経験する事だろ!』

『素直に謝ったかと思ったらあっという間に逆ギレするか。まったく反省してないな。慶太郎!お仕置きだ!こっち来い!尻を出せ!』

『嫌だ!い、嫌だ!やめろ!バカ!うわっ!嫌だ!痛い!いってぇー!痛い!っく、痛いよ!や、やめて!痛い!ご、ごめんなさい!っく、いてー、ぎゃー痛い!痛いよ!壮ちゃん!ごめん!痛い!っく、いたっ!っぐぅ』

『何についてごめんなさいなんだ?』

『っく、タバコ吸ってごめんなさい、痛い!』

『じゃあ次はとぼけようとして嘘をつき俺の目を見て話すよう注意したのに聞かなかった分のお仕置きだな』

『無理!痛い!うぎゃーいってー!やだ!痛いよ!ごめんなさい!やめてよ!もうしない!痛い!っぐ、いてっ!痛い!っく、いたっ!うっく、いた、っく、ひっく、いたいよー』

『泣くぐらいだったら悪い事だってわかっててするんじゃない!悪い事をしてる自覚があるからお前は俺の目を見れないしすぐにバレるような嘘までつかなきゃいけないんだろ!わかってるのか?慶太郎!』

『っく、うっく、わ、わかってる!痛い!ひっく、ごめんなさい、うっく、っく』

『道具はもう耐えられないだろうから手で叩くよ。それに誰がバカだって?俺はいちお医者になれたんだからそれなりの努力をしてきたしお前の勉強ぐらいは見てやれるんだけどな』

『っく、ち、違う!痛い!本気で言ったんじゃないよ!っく、いってぇーぎゃー痛い!やだ!痛い!いたっ!ご、ごめんなさい!痛いよ!もう、言わない!痛い!っく、うっく』

『わかってるよ。思春期の反抗期だからな。感情のコントロールが難しいのはわかるけど暴言は慎みなさい!思春期はお前自身との戦いなんだよ。誘惑や持て余す感情をコントロールする努力をしないとラクな方へ逃げる癖がつくし人間はみんな辛いと逃げ出したくなるものだけど逃げ出したって課題をクリアしない限り同じ壁にぶつかるんだ。一瞬逃げたようでも結局乗り越えていない壁はまたいつしか現れるようになってるいるのが人生なんだよ。まだ13歳のお前には難しいかな?とにかく法律上未成年者の喫煙は認められていない。やってはいけない事をお前は興味本位であろうがなんだろうがやったんだからそれなりの罰を受けて当然だ。しっかり反省しなさい!。あと手で30叩くよ!誘惑に負けそうになる前にお前は尻の痛みを思い出さないから簡単に誘惑に負けるんだよ。慶太郎はすぐに忘れるからな。もっと忘れられないぐらい叩かれないとダメなのか?』

『うっく、もう痛い!っく、しない!いったー!痛い!っく、痛い!うっく、ごめんなさい!痛いよ!っく、ひっく、っぐ、うっく』

『はい。終わりだ。そのまま尻を出して反省してなさい!いつもこの反省が出来てないんだよお前は!ほら!壁の方を向いて立ってろ!手は頭の後ろで組め!なんでこんな痛い目にあうのか自問自答を繰り返しなさい!それが反省をすると言う事だって何度も言ってるだろ!動くな!わかったのか?』

『うっく、は、はい。っく、ひっく』

お前の思春期は相当荒れそうだ。慶太郎。お前は幼い頃から不安定な心でここまできたんだもんな。でも大なり小なりみんな迎えるもんなんだ。お前自身がわけのわからない苛立ちや不安、恐れ等入り交じる抑えきれない感情をコントロールするのは至難の技だろうね。それでも乗り越えなきゃいけないんだよ。お前が自分自身でね。人様に迷惑さえかけなきゃ俺にいくらでもぶつけてくれていいよ。他人を傷つけたり迷惑をかける事はやめてくれ。お前自身も傷つくんだよ。まだまだ始まったばかりの思春期だ。思春期と言う敵はお前が倒さなきゃいけないんだぞ。

『慶太郎!1時間立ったけど反省は出来たのかな?』

『うん。俺が悪かった。ごめんなさい』

『はぁ。本当にわかってるのか?わかってくれてると思いたいよ。ほら!腹減っただろ!パンツあげて!ご飯食べるよ!』

『うん!ちょー腹減った!』

『お前本当に反省した?』

『したよ!なんでだよ!』

『次がない事を願うよ』

まだタバコぐらいなら人を傷つけるわけじゃないけど歯止めが効かなくなることが怖いんだよ。辛い壁に立ち向かうかラクな方へ逃げるか。大抵の人間が一瞬のラクを選んで逃げきったつもりになるんだ。お前だけじゃない。でもそれは時間を無駄にしただけだと後になって気づくんだよ。人間ってそれぐらいみんな愚かなんだ。お前だけじゃないんだけどね。俺もだよ。頑張って思春期を乗り越えていこうな!慶太郎!

『壮ちゃん!また玉ねぎ入ってる!俺嫌いだって言ってんじゃん!』

『食べなさい!栄養のバランスを考えて俺だって慣れないなりに頑張って作ってるんだよ!文句を言わずに食え!世界には一日何も食べる事が出来ない人達が沢山いるんだよ!お前のわがままなんか許さないぞ!尻をもう1回叩こうか?』

『嫌だ!食べるよ!食えばいいんだろ!マズッ!』

『玉ねぎを一生懸命作ってくれてる人がいて俺達は食事に使う事が出来るんだぞ。なんでもそうだけど俺達が口に出来るのは当たり前の事じゃない。生産者の汗と苦労を理解しようと努力しなさい。当然のように出来るもんじゃないんだからね。それに天と地の偉大な自然の恵みに感謝できる大人になってもらいたいよ。まだまだお前には難しいか。コラ!玉ねぎをよけるんじゃない!』

『食うってば!』

慶太郎!自然の偉大さは素晴らしいよ。それをお前に教えたいな。夏休みになったら山や海、森に出かけていっぱい自然を感じに行こうな!慶太郎!

『壮ちゃん!ここって海が近いからいいね!俺もサーフィンやってみたいな』

『そうだな。ご飯を食べたらちょっと海まで散歩に行こうか?』

『うん!』

『慶太郎!波の音が聴こえるね。母なる海は俺達人間を含めてあらゆる生物の源なんだ。海は俺達を癒す偉大な力を秘めているんだよ。穏やかな波は優しく洗い流し激しく波立つ時には厳しくも俺達の愚かな部分を洗い流しそして優しく包み癒してくれるんだ。地球に生息する全てのものたちのお母さんの役割を平等にこなしてくれるんだから偉大なんだ。わかるかな?いつか慶太郎が感じとってくれると俺は嬉しいよ』

『母なる海?みんなのお母さんなんだ。そっか。だから気持ちいいんだね。壮ちゃん!』

『あー。そうだよ。慶太郎』

『今日の波の音はなんだか優しい音だね』

『そうだな』

慶太郎!嫌なことがあったら母なる海に洗い流してもらいなさい。君が生きていけるようにきっと力を貸してくれるよ。
『結城です。慶太郎がご迷惑をおかけしてすいませんでした。帰るよ。慶太郎。ほら車に乗れ』

『もう説教とかいらないから。壮ちゃんまだ仕事でしょ。病院戻ってよ』

『戻るよ。慶太郎と飯を食ってから行くさ』

『俺いらない』

『成長期なんだからしっかり食わなきゃダメだ。はぁー。慶太郎!早く食べなさい』

『だってお仕置きは?』

『お仕置きされたいのか?』

『されたいわけねーじゃん。食う気にならない』

『はぁ。お仕置きはしないよ。喧嘩をするなとはルールに入れてなかったからな。でも慶太郎。無茶はやめろ。喧嘩をしてお前に何かメリットあるか?もしもお前に何かあったらどうする?俺はそっちの方が心配だ。早く食べなさい』

『うん!』

夏休み間近だしこれからもっと心配だな。夏休みなんてロクな事をしないんだろうしな。塾へちゃんと行ってくれればいいんだけど。同じクラスの子と喧嘩か。先に手を出したのは相手らしいしすぐに先生が止めてくれたから大きな喧嘩にはならなかったみたいだけどまだ始まったばかりの難しい思春期。問題はこれからだな。

『あっ!親父だ』

『ん?どこ?あー本当だ。慶太郎!話してくるか?』

『何を?それに女と一緒なんだからデートの邪魔なんじゃねーの』

『デートかどうかわからないだろ。仕事の付き合いでランチに来てるのかも知れないしね。慶太郎は新しいお義母さんとは上手くやれてたの?慎二郎の下にも弟が出来たんだよね?優しくしてくれたか?』

『うん。してくれた。でもどうしていいかわかんなかった。ご飯作ってくれたり行ってらっしゃいとか言われた事ないから急にされても困った』

『そうだね。優しくされたら慣れてない分、慶太郎は戸惑ったんだよな。早く食べろ!帰るよ!』

『うん』

『あっ!結城くん?お久しぶり。ごめんね。慶太郎を押し付けて。迷惑かけてない?』

『お久しぶりです。高見社長。俺は押し付けられたと思ってませんよ。俺が好きで慶太郎を預かってるんです』

『あー悪い。慶太郎!背伸びたな』

『誰?その女は誰なんだよ!悠のお母さんがいるだろ!』

『仕事の事で打ち合わせだ。別になんでもない。ガキには関係ない事だろ。お前は結城くんに迷惑かけないようにしてろよ』

『親父!俺の事好きに決まってるって小さい頃言ってたけどあれは嘘でしょ?俺の事なんて好きじゃなかったんでしょ?なんで俺を受験させたの?俺なんかいらないんだから受験なんてさせる必要なかったじゃん!悠には俺と同じ事するなよ!』

『何バカな事を言ってるんだよ。お前を結城くんに預けたのはお前の為だ。あんな事があってせっかく中学受かったのにお前が学校に行きずらくなったら可愛そうだと思って配慮してやったんだ。変な噂さでも立ってお前がいじめられないようにな。だから苗字も変えてもらうよう結城くんに養子にしてもらったんだよ。お前が高校卒業して大学生になればまた籍は戻すさ』

『そんなのどうだっていいよ!あんたの子じゃなくていい!俺は壮ちゃんの子だ!あんたが大学とか決めんじゃねーよ!大学なんか行くか!バカじゃねーの!いつまでもあんたの操り人形じゃねーんだよ!』

『慶太郎!やめなさい!そういう言い方をするんじゃないって言ってるだろ。あんたなんて言うんじゃない!』

『いいよ。結城くん。相変わらず困った奴だ。迷惑かけるね。慶太郎をよろしく頼むよ』

『頼まれなくとも俺は俺の精一杯の愛情を慶太郎に注ぎますよ。高見社長。慶太郎の問いにちゃんと答えてやって下さい。愛してるって言ってやるだけでいいんですよ。慶太郎の為だとかそんな事を慶太郎は聞きたいんじゃないんです。愛されていたのか?愛されているのか?ただそれだけを聞きたいんですよ』

『忙しいから失礼するよ。行こう』

『くそジジイ!俺らだけじゃなく悠も傷つけんのかよ!まだ小さいんだぞ!お前も早く死んじまえ!いってぇー!』

『慶太郎!人に向かって死ねなんて言うな!俺は二度と聞きたくない!帰るぞ!すいません。失礼します!』

高見さん!どうして一言慶太郎に愛してるって言ってやれないんですか?慶太郎は貴方に言って欲しいんですよ。

『痛い!壮ちゃん!ごめんなさい!いたっ!やめてよ!痛いよ!っく、いってぇー!』

『何がごめんなさいなんだ?お仕置きされてる理由がちゃんとわかってるか?勘違いするなよ!学校で喧嘩した事をお仕置きしてるんじゃないぞ!』

『痛いっ!わ、わかってる!っつ、痛い!もう言わない!絶対言わない!ごめんなさい!いったー!っく、痛い!いてっ!』

『慶太郎。本当に俺は二度と聞きたくない。人の命の重さを知る人間になってくれ。お前にはわかるはずだよ。人に死ねなんて冗談でも言わないでくれ。いいな?』

『っく、うっく、ご、ごめんなさい、っく、壮ちゃん、ごめん。もう二度と言わない。うっく、ひっく、っく』

『うん。わかったんだったらいい。俺はお前を愛してるよ。俺に言われても嬉しくないだろうけどな。だからお前には生きててほしいんだよ。俺には必要なんだ』

『っく、壮ちゃん、うっく、お、俺も壮ちゃん好きっく、うっく、ひっく』

『うん。ありがとう慶太郎。じゃあ反省しようか?尻だして壁の方を向いて立っていなさい!』

『えー?なんでそうなるんだよ!してるじゃん!』

『言ってはいけない言葉を軽々しく口にしたんだぞ。言われた方の気持ちを考えなさい。一生傷つける事だってあるんだ。言葉は凶器にもなるんだよ。見えない心の傷はなかなか治らないんだ。わかったらしっかり自問自答して反省しなさい!動くんじゃない!』

『わかってるけど痛いんだよ!』

『尻が痛いのは時間が経てば治る。厄介なのは見えない傷の方なんだよ。見えないからこそなかなか人にもわかってもらえないからね。コラ!動くな!もう1回叩くぞ!』

『嫌だ!ごめんなさい』

慶太郎!見えない傷が1番痛い事をお前が1番知ってるじゃないか。叩かれた尻よりずっと痛いだろ?だからこそお前は優しい人になれるはずだよ。人は痛みを知らないと平気で人を傷つけるようになるからね。お前は他人の痛みをわかってやれる大人になると俺は思っているよ。
夏休みに入って日に日に慶太郎の生活態度が堕落してきたな。俺が夜勤もあるし忙しい事を理由に相手をしてやれる時間がないのは確かだがそれでも俺は時間の許す限りお前と真剣に向き合ってきたつもりだ。所詮俺の自己満足かな。慶太郎!お前は今、何を考え何を思っているんだ?言ってくれよ。血の繋がりがなければやっぱりわかり合えないのか?家族であってもわかり合う事が難しいもんな。そんな時代だからって言い訳はしたくない。ダメだな!俺が弱気になってどうするんだ?子供ってのは敏感に察知するんだよな。慶太郎はもう中学生だから子供扱いするなって言うけど責任も取れない、1人で生きていく力もないお前はまだ充分子供だよ。子供は子供らしく甘えてなきゃ強がっていてもお前の心はまだ幼く脆いんだよ。甘える事を許されなかったお前だから甘え方がわからないんだろうね。慶太郎!俺はお前にどれだけの事を教えてやれるだろうか。生きる上で大切な何かをお前に少しでも伝える事が出来るんだろうか。お前と暮らし始めてまだ半年だ。出来る限り時間を共にしたいと思っているからお前に門限を与えているんだよ。

22時を過ぎても帰ってこない慶太郎を待っていた俺の元に突然鳴り響いた電話は警察からだった。無免許でバイクを運転し警察に追われた際転んだが慶太郎には幸いたいした怪我はなかった。しかし慶太郎が後ろに乗せて走っていた同じ歳の女の子が亡くなってしまった。お前は何をやっているんだよ。一生消えない傷をいくつ作る気なんだ。お前はそれでも生きていかなきゃいけないんだよ。

『慶太郎!お前は何をやったかわかってるのか?お前は大丈夫なのか?』

『わかってるよ。人殺しだよ!俺は人殺しの殺人犯だろ!』

『そんなことを言ってるんじゃない。確かにお前がやった事は許されない。俺は、俺は、お前が大丈夫なのかって言ってるんだよ!お前はそれでもちゃんと生きる事を選んでくれるのかって聞いてるんだ!それらも背負ってそれでもお前は生きてくれるのか?って聞いてるんだよ!バカ野郎!』

『知らねーよ。死ぬ時は死ぬんだ。ただそれだけじゃん』

『悪かったよ慶太郎。あの頃お前を抱きしめていたらって何度も後悔したんだ。小さなお前が親の愛情を求めているのをわかっていて俺は一番近くにいたくせにお前に情をかけてはならないとあえて厳しく突き放した。何度も抱きしめてやりたいと思っていたんだよ。でも俺はただの使用人でお前の小学校受験が終わるまでの所詮契約社員である身でありながら中途半端な情などかけては余計辛い思いをさせるだけだと思ってお前を抱きしめてやる事を咎めていた。強い子に育ってくれと願う事しかあの時の俺は出来なかった。でも間違っていたよ。やっぱりあの頃の幼いお前を抱きしめてやるべきだったね。ごめんな慶太郎!お前は愛を欲していた。たとえ親の愛に勝らぬとも小さな小さなお前が求めているものに俺は応えてやるべきだった。慶太郎!ごめん。俺は見て見ぬフリをして自分自身の力の無さに言い訳をして逃げただけだ。悪かった』

『壮ちゃん。俺を抱きしめてくれるのはこれで二回目だね。壮ちゃん!迷惑かけてごめんなさい。壮ちゃんはあったけーな。俺は死ぬまで生きるからもう心配しないでよ。他人の俺を引き取ってくれてありがとう。俺チビの頃壮ちゃんにお尻叩かれる度に痛くてわんわん泣いたけど壮ちゃんの愛情をたぶん感じていたよ。愛情ってどんなものなのかよくわからないんだけど。初めて抱きしめてくれたのは中学校に入学する前だったね。俺はあの日初めて人の温もりに触れて泣いたんだ。お母さんがいなくなったから泣いたんじゃなくて壮ちゃんがあったくて泣いたんだよ。ありがとうございました。壮ちゃん!短い間だったけどお世話になりました。もうこれ以上壮ちゃんに迷惑かけられないから俺は児童相談所を出たらどうせ私立中学は退学でしょ?親父の家に戻って公立の中学へ通うよ』

『慶太郎!何の力にもなれず本当にごめんな』

『なんで?なってたよ!力になってた。壮ちゃんだけが俺と真剣に向き合ってくれたじゃん。俺を見ててくれた。わかってたよ。わかってても俺が逃げ出したんだ。俺が弱すぎたからだよ。さようなら壮ちゃん』

慶太郎!どんな事があっても負けないで生きてくれよ。俺はお前の傷を結局癒せないまま新たに傷を増やさせただけだったな。父親失格だよ。俺は本当に無力だ。どうか神様13年間辛い思いをしてきた慶太郎にこれからはありきたりな小さな幸せで充分ですからもうこれ以上苦しみを背負う人生だけは用意しないでやってください。お願いします。
慶太郎が出て行って半年が過ぎた。慶太郎!お前はどうしてる?もうすぐ始業式だな。児童相談所を出て中学2年からの転校になるけど中学校生活を乗り越えていけそうか?いつでもいいから何かあったら俺に会いに来てくれよ。俺が出来る限りの事をさせてほしい。でも俺は不甲斐なく俺の力不足だったが為にお前の小学校受験を失敗させてしまったんだよな。そしてお前が自分の力で勝ち取った中学受験合格。その喜びに浸る間もなくお前は絶望の中にいたね。小学校受験に失敗したお前に待っていたのは両親の離婚。もちろん俺はお前のベビーシッターでもなく使用人でもなくなっていたから離婚したと知ったのはあの日お前と運命の再会を果たした時だったね。

『先生!救急車が到着します!』

『はい。心肺共にすでに停止だったね』

『はい!確認のみかと』

『付き添いはあの子?』

『はい。可哀想にまだ小学6年生みたいです。発見、通報共にあの子ですよ。高見慶太郎くんと言うそうです。亡くなったのはあの子の母親みたいですね』

『あー。わかった。ありがとう』

慶太郎!大きくなったね。

『なに?どうして僕を抱きしめてくれるの?あっ!先生の名札と同じ名前の人を僕知ってるよ。元気かな?会いたいよ。壮ちゃん!』

俺はお前の小学校受験が終わり契約通りお前の前から去ってその後勉強し直し落ちていた国家試験に挑んで医者になり救急外来に勤務していたんだよ。あの日突然運び込まれてきた女性と共にいたのは12歳になった慶太郎だったね。小さい頃の面影も残っていたよ。運ばれてきた女性は君のお母さんでとっくに息を引き取っていた。自殺だった。発見者、救急車への通報者もお前だったんだよね。よく1人で冷静に通報できたな。まだ小学校を卒業していなかったじゃないか。病院で長い間呆然と立ち尽くしているお前にいつ声をかけようかと何度も躊躇していた俺は本当に情けないよ。どんな言葉をかけたらいいのか見つからなかったんだ。だからいつまでも立ち尽くすお前に何も言えずただ抱きしめる事だけが俺の精一杯出来る事だった。そしてお前は両親が離婚した原因は小学校受験に落ちた自分が勉強を頑張らなかったからだと話し始めてくれたね。中学受験合格を目指し必死に勉強を頑張り離れて暮らす母親に私立中学合格を知らせる為に母親の元を訪れた事。数年ぶりにやっと会えると思い今度こそ喜んで褒めてくれると期待して向かったのに母親と遺体で対面したんだよな。数時間前に会いに行くと電話で話したはずの母親と。合格を喜んでもらえると思っていた母親に受験合格当日に自殺されたお前の心が壊れるのは当然だろう。俺でもきっと耐えられないよ。家で暴れまわるが為に幼い頃お前のベビーシッターだった俺の元へ君のお父さんが預かって欲しいとお前を連れてきて慶太郎と俺の生活が始まったんだ。その時のお前にはもう新しいお母さんと腹違いの小さな弟もいたな。お前が幼い頃にいた君の弟も随分大きくなっていて時間の過ぎ行く速さをとても感じた時だったよ。幼いお前が小学校受験を控えていても君の母親はお前に冷たく弟だけを可愛がりお前の日常生活から幼稚園や習い事への送り迎え等お前の生活全てを俺に任せっきりで優しい言葉すらかけずお前が視界に入る事を嫌がっていた。俺から見れば育児放棄で慶太郎を愛しているとはとても思えない対応だったけど受験勉強を頑張っているお前にある日お母さんは僕の事を嫌いなの?と尋ねられた時は本当に困ったよ。そんなことはない。お前が受験で大事な時期だからと言うのが精一杯のフォローのつもりだった。あの時に俺が抱きしめていたらよかった。抱きしめてやりたかったんだよ。それが出来なかった。ごめんな慶太郎!お前は生きろ。強く生きてくれ。
『慶ちゃん!新しい学校の制服が届いたよ。あと必要な物はない?』

『ないです』

『慶兄ちゃん!遊ぼう!』

『悠!また今度ね』

俺は私立中学を1年で退学になって公立の中学校へと転校する事になった。街で出会って名前も知らないまま遊んだ同じ歳の女の子を俺はバイクに乗せて死なせてしまった。俺は本当に生きてていいの?ねえ?壮ちゃん!俺だけなんで生きてるの?

『おい!お前転校生だろ?』

『だったら何だ?なんか用?』

『はあ?てめぇー私立行ってたからって調子に乗んなよ!』

『調子になんか乗ってねーよ!っぐぅ。うぅっ。いってぇーな!ハァハァ、っぐぉ』

『もういいよ!恭一!こんな弱いボンボンやっちゃったってつまんねーよ』

『待てよ!ハァハァ、俺はまだやれるぞ!』

『強がるなよ!お前じゃ勝てねーよ!坊っちゃんは勉強でも頑張ってろ!』

くっそー。絶対やり返してやる。俺は坊っちゃんじゃねーよ。

『おい!恭一くんだっけ?この前はどうも!』

『っうぐぅ、な、なんだよ!っく、いって』

『俺をなめんじゃねーよ!』

『っぐ、や、やめろ!うっぐぅ、わ、悪かった』

『お前らの頭は誰だよ?大輔って奴か?』

『っぐぅ、そうだよ!っく、でも大輔はやめとけ!っぐう、うぅ、お前じゃ無理っく』

『それは俺が決めるんだよ!』

『おい!お前何してくれてんだよ!恭一?大丈夫か?てめぇー仕返しかよ?ふざけんなよ!お坊っちゃんが!』

『ふざけてねーつうの!1ヶ月も学校来てねーから俺がビビって逃げたと思ったか?残念!やられたらやり返すでしょ!普通ですよね!俺は家に引きこもってたわけじゃないんだよ!』

『っぐぅ、少しは鍛えてきたんだな。坊っちゃん!っうぅ!』

『っうぅ!俺は坊っちゃんじゃねーよ!くたばれ!大輔!』

『うぁっぐぅ、ハァハァ、っぐぅ、まだだぞ!早く来いよ!慶太郎!』

『ハァハァ、っぐ、やっと名前で呼んでくれたね!じゃあ遠慮なく!ハァハァ』

『っぐ、ハァハァ、いってーっうぅ、ぐぅ』

『大輔!大丈夫か?俺らもやるぞ?』

『っく、ユズル!やめろ!っぐ、俺と慶太郎のタイマンなんだよ!っぐぅ!』

『ハァハァ、お、俺は何人でも相手出来るぞ!仲間呼べよ!っぐぅ、強がるなよ!大輔!俺の方がお前より強い!』

『ハァハァ、っぐ、あーお前の方が強いな。ハァハァ、でもまだわかんねーぞ。俺、最近鍛えるのをさぼってたからな。っうぁ、っぐ』

『あっそう。ハァハァ、じゃあ鍛えたら第2ラウンド開始でいいよ!俺にも少しは生きる楽しみが出来た。今度はしっかり鍛えてこいよ!じゃないとお前やっちゃうよ?俺を殺す気で来い!俺は命なんて惜しくねーんだから。お前らみたいにぬるい人生歩いてねーんだよ!次はもっと本気でこい!大輔!わかったのかよ!おい!こら!今やっちまうぞ!大輔!俺をやれ!』

『っぐぁ、うぅっ、あーわかったよ。慶太郎!俺もたいしてぬるい人生歩いてねーけど。ハァハァ、慶太郎!お前だけが特別じゃねーよ!』

『慶ちゃん!おかえり!どうしたの?大丈夫?』

『なんでもないです』

『兄貴!勉強教えて!これわかんないんだけどってどうしたの?』

『なんでもない。慎二郎!家庭教師に教えてもらえよ。俺、飯はいらねーからってお義母さんに言っといて』

『あっ、うん。わかった』

壮ちゃん。俺はなんとかやってるよ。でもやっぱ壮ちゃんと居たかったな。お仕置きは嫌だけど壮ちゃんは俺の居場所を作ってくれていたよね。俺があんなバカやらなかったら今も壮ちゃんと暮らせていたのにね。夏休みになったら遊びに行くよ。壮ちゃん!俺、何の為に生まれてきたのかな?俺の未来はどんな感じなんだろう?落ちこぼれた俺に未来なんかあるの?壮ちゃん!会いたい。
慶太郎が父親の元に戻り中学2年になって夏休みに入った頃俺の元を慶太郎が訪ねてきた。

『壮ちゃん!お金ちょうだい!』

『慶太郎!なんだその頭は!ちょっと入れ!』

『痛い!引っ張っるなよ!』

『お前の学校では金髪は校則違反じゃないのか?許される事なのか?』

『そうだよ!公立は緩いからね!ちょー楽だよ!』

『堂々と嘘をつくんじゃない!そんな学校あるわけないだろ!慶太郎!お仕置きだな。嘘をつくなと俺は躾たはずなんだけどな』

『はあ?なんで今更壮ちゃんにそんな事、うわっ、ちょ、ちょっとやめろ!はなせよ!嫌だ!痛い!いってぇー!やだ!何すんだよ!っつ!痛い!ご、ごめんなさい!壮ちゃん!痛い!痛いよ!いてっ!やめて!痛い!っぐ』

『さすがに中学2年にもなると泣かなくはなったな。でもまだ終わらないぞ。慶太郎!ルールはどこへ行っても守るものだ。社会だってルールを守らなければ罰されるんだよ。秩序が乱れるからな。ルールは守る為にあるんだ。中学生であるお前はお前の通う学校の校則に従う義務があるんだよ。その頭丸めるか?どうする?慶太郎!まだ尻を叩かれたいか?』

『嫌だ!なんでそんな事をしなきゃいけねーんだよ!いったぁー!俺、お仕置きされに来たんじゃないだけど!痛い!やだ!はなせよ!やめろよ!バカ!いってぇー!いや!痛い!っつ。いたっ!痛い!わかったからやめて!』

『相変わらず痛い思いをしないとお前はわからないんだな。慶太郎!反省がまだだ。尻出して立ってろ!覚えてるだろ?悪い事だってわかっててやったんだからな!しっかり反省しなさい!反省ができたら頭を丸めに行こう』

『マジかよ!嫌だよ!うわっーぎゃーいってぇー痛い!痛い!行く!行くから!やめて!』

『ん?お前タバコの臭いがするけどまさか持ってるのか?今出せば10発で勘弁してやるよ。でも嘘をついたら50発だ』

『・・・・・。えー?えっと持ってるかな?ごめんなさい!』

『お金がいるのはタバコを買う為に必要なのか?』

『違う!痛い!違わないけど!いてぇー!ゲーセンに行くの!痛い!いたっ!もうやめる!痛い!っつ、いったぁー!』

『正直に言ったから約束通り10発で今日は勘弁してやるけど反省は倍させるぞ』

『そんな!壮ちゃん!ごめん!もう許してよ!なんで俺が壮ちゃんに怒られるわけ?』

『俺はお前を息子のような弟のような気持ちで半年間接してきたし今も変わらずそう思っている。お前の事が誰よりも心配だ』

『・・・。壮ちゃん?ごめん。俺心配ばかりかけてるね』

『本当に心配していたんだぞ!学校にはちゃんと行っているのか?友達はできたか?』

『うん。出来たよ』

『そうか。良かった。慶太郎!生きててくれてありがとう。生まれてきてくれてありがとう。俺と出会ってくれてありがとう。俺の息子になってくれてありがとう。頑張れ慶太郎!お前は強い子だ。お前ならいつか乗り越えて幸せを掴んでくれると信じてるからな!慶太郎!俺が教えた事を覚えておいてくれよ。お前は勉強以外の事となると忘れっぽいからね』

『壮ちゃん。あったけー。俺も壮ちゃんみたいに抱きしめてやれる人間になれるかな?』

『なれるよ!お前は俺が育てたんだから』

『うん!』

『ほら!反省がまだだ!壁向いて立ってろ』

『え?なんでそうなるんだよ!いってぇーするよ!反省します!』

慶太郎!おかえり。相変わらずやんちゃ度は増してきているようだけどお前が生きててくれるだけで俺はいいよ。バカな事をやったなって振り返る時が必ず来るさ。お前はお金を持っているじゃないか。使いきれない程に。お父さんも相変わらずお前にお金しか渡せないんだな。お前が欲しがっているのは親の愛情なのにね。だから俺に会いに来てくれたんだろ。お小遣いを理由にして。ありがとう慶太郎!新しい家族とは上手くやっているか?でもお前をお仕置き出来るのももうこれが最後だよ。ごめんな慶太郎!あっちでお前の事を見守っているからな。荒れた思春期ちゃんと乗り越えて大人になれよ!慶太郎!

壮ちゃんに会えたのはこの日が最後だった。末期の癌だったらしく夏の終わりと共に壮ちゃんも遠くへ逝ってしまった。医者が何やってんだよ!バカじゃねーの!壮ちゃん!俺の事置いていくなよ。壮ちゃんだって忘れてるよ!俺また1人じゃん。坊主にされた髪も少し伸びてきたよ。また金髪にしたら壮ちゃんに逢えるの?俺宛ての遺書にお仕置きはお前がこっちに来る時が来るまで待ってやるから回数増やす事をするな。しっかり見てるぞって書いていた。壮ちゃん!そんな遠くから脅されたって俺、全然怖くないよ。俺のそばで怒ってよ!でも壮ちゃんが抱きしめてくれた温もりを知っているのは俺だけだから俺がもし大人になったら壮ちゃんの想いを引き継いでいくよ。そっちで怒りながら俺が大人になっていくのを見ててよね。ありがとうございました!壮ちゃん!今度は本当にさようなら。でもまた会えるよね。俺がそっちに行く時が来たらちゃんと迎えに来てね。壮ちゃん!大好きだったよ。俺を愛してくれてありがとう。
壮ちゃんが遠くへ逝ってしまって二学期が始まったいたがあまり俺は登校する事もなく家に帰る事も少なくなり大輔の家に泊まる事が多くなっていた。大輔は母子家庭で母親はホステスをしていたから自然と大輔の家が俺達仲間の溜まり場になっていたし大輔にも見えない闇がある事を俺はわかっていた。

『おい!慶太郎!お前の女が来たぞ!』

『え?誰?俺に特定の女はいないけど』

『いかれてる女だ!お前あの女はやめとけ。巻き込まれたら厄介だぞ』

『あー。絵里か。やめるも何も1回やっただけなんだけどな。しつこい女だね』

『あっ!慶太郎!やっぱりここにいたんだ!遊びに行こーよ!』

『俺はお前と付き合ってないよ。1回寝たぐらいで勘違いすんじゃねーよ!二度と来るな!』

『うん。そんなの知ってるよ!慶太郎があたしなんかと付き合ってくれるわけないくらいバカなあたしでもわかるよ。ただ今日はちょっと遊びに行きたくなっただけ。ほら!原チャ拾ったよ!これで適当に走ろうよ!』

『俺はバイクには二度と乗らねーんだよ。お前はシンナーで狂ってる。俺が捨てて来てやるから帰れ』

『ごめん。でも今は正気だよ。私が戻してくるよ』

『もうついてくるな!早く帰れ!俺は狂った女と付き合う気なんてねーんだよ』

『おい!君達ちょっと待ちなさい!警察だけど君達はまだ中学生かな?こんな夜遅くに何してるんだ?それにその原付バイクはどうした?』

『あたしがパクってきたんだよ!どこでも連れてけばいいじゃん!』

『俺ですよ。俺が押してるんだから見てわかるでしょ。俺がパクリました』

『とりあえず君達ちょっと話しを聞かせてもらおうか』

大輔!お前の言う通り厄介な事になったよ。俺はまたしばらく出てこれないね。お前らとバカやれないのはつまんないけどまあまたそのうち出てくるからその時はまたよろしくな。壮ちゃん!ごめんなさい。俺、次は鑑別所だよ。バイクに乗る気はもうないんだけど日頃の行いが悪いからこういう事になるんだよね。壮ちゃんがいなくなってからも俺はお仕置きされるような事しかやってないよ。俺はもうダメなんじゃないの?早く迎えに来てよ。俺は何をしたらいいのかわからない。完全に闇の迷路に迷いこんだみたいだよ。

『大輔!慶太郎はそろそろ出てくるかな?』

『さあな。まあ3年になる頃には帰ってくんじゃねーの?もうすぐ春休みだな。恭一!慶太郎は本当に次はあとがない。来年俺達は中学を卒業だ。俺、卒業式は全員で出たい。もし何かあっても慶太郎の事は絶対に吐くな!』

『わかってるよ!俺達なら慶太郎より軽く済むからな。何があっても吐くわけねーじゃん。全員揃って卒業しようぜ。なあ!ユズル!誠!謙也!雄一郎!』

『当然だろ!早く帰ってこいっつうの!あのバカ!』

『ほんとだよ!マジ!バカだ!慶太郎!お前がいねーとつまんねーんだよ!』

俺は中学3年の始業式には戻ってくる事が出来た。一緒に捕まった絵里は薬物を使用していた為更生施設に入ったままだと噂に聞いたがその後絵里と会う事はなくまた嫌な夏休みを迎えようとしていた。俺は誕生日を忘れ気づけば15歳になっていた。

『慶太郎!お前高校どうすんの?』

『高校?そんなの考えてねーよ。行けるかどうかもわかんねーし。鑑別所上がりの少年が高校なんか行っていいんですかね』

『お前なら成績いいんだから行けんだろ?行けよ!』

『はあ?お前は俺の親かよ!大輔くんこそ高校行くんですか?』

『俺は定時制かバカ高校はいちお受験するつもりだぜ!』

『そうなんだ。俺はわかんないね。とりあえず飯食いに行こう!腹減った!奢るよ!ユズル!恭一!お前らも行こうぜ!』

『慶太郎!お前お小遣い貰い過ぎだぞ?マジありえねーから!』

『知るか!だから奢ってやってんじゃねーかよ!今日は大輔ん家で飲もうぜ!いちいち万引きなんてめんどくせー事しなくたって金はあるんだから余計な事をするなよ!ユズル!』

『わかってるよ!慶太郎!タバコもお願いします!』

『なんでも買えよ!俺の金じゃねー。クソじじいの金だ。使いまくりゃいいんだよ』

そして俺達は夏休みに大きな乱闘事件を起こした。相手はどこの誰かもわからないようなグループと大乱闘となった。通報されたのかパトカーのサイレンが聞こえ始めていたがどちらもなかなか折れる事なく殴り合いは続いていた。はぁーあと二人やれば片付くね。

『慶太郎!お前もう逃げろ!あとは俺達でやれる!余裕でな!早く行け!』

『はあ?何言ってんだ?バカか!大輔!俺は別にパクられてもどうって事ねーよ!やっちまうぞ!きっちりカタはつけとかないとね!』

『慶太郎!ふざけんな!お前はもう後がねーんだぞ!次は半年やそこらで出てこれねーんだからな!』

『大輔!お前に借りなんて作らねーよ!俺は1年だろうが2年だろうがどうってことねーんだ。俺にはもうビビるもんなんてねーからな』

『借りじゃねーよ!俺の頼みだ!お前と一緒に卒業してーんだよ!バカ!誠!早く慶太郎を連れて逃げろ!慶太郎!全員で一緒に卒業しよう!頼むよ!俺はお前の親友じゃねーの?親友の頼みをたまには聞けよ!勝手に暴走ばっかりしやがって!頼むよ。慶太郎!』

『大輔。ごめん。俺心配ばっかりかけてるんだな』

『悪いと思うんだったら早く行け!誠!頼むぞ!』

『あー!わかってるよ大輔!慶太郎!行くぞ!来いって!』

俺は大輔の言葉に呆然としていて気づけば誠と2人逃げ切ったようだった。大輔!お前だって次は鑑別所だぞ。卒業式にお前が間に合うのかよ?恭一、ユズル、謙也、雄一郎は保護観察付きだが二学期に入りしばらくして学校に戻ってきた。俺達は大輔の帰りを待ちながら冬休みを迎えようとしていた。

『慶太郎!お前どこを受験するの?』

『あー。まだ決めてない。恭一は?』

『俺は大輔と同じヤンキー高校。ユズルはサーフィンしたいから定時制だってよ。誠と雄一郎は工業高校。謙也は普通科だけど受かるか微妙らしい。お前だけだぞ決めてねーの!それともうすぐ大輔帰ってくるぞ!大輔の母ちゃんが言ってた!正月までに帰ってこれそうだって!』

『マジか?良かった。受験間に合うんだ』

『あー。だからお前もさっさと高校決めろよ!お前が1番頭いいんだから出世して大人になったら俺らに奢れよ!』

『出世しなくてもお前らに充分奢ってるけどな』

『そうっすね!いつもお世話になります!』

『慶太郎!今日いい波来てるらしい!一緒に波乗りいかねー?お前!海好きじゃん!俺もだけど!サーフィンだから健全な遊びだろ?』

『あーそうだな。行こう!ユズル!』

壮ちゃん!俺、仲間と一緒に中学を卒業出来そうだよ。大輔って本当にバカだけどいい奴なんだ。俺を守ってくれたんだよ。仲間っていいもんなんだね。俺、生きてる間はこいつらを大事にするよ。母なる海は今日も優しく俺を包んでくれました。壮ちゃん!俺、高校に行ってもいいのかな?俺の道ってどこにあるの?わからないよ。俺いっぱい悪い事してるからもうかなり尻叩かれる回数増えてるよね?俺が生きてて誰かの役に立つ事なんてあるの?社会の迷惑でしかないんじゃねーの?それでもまだ壮ちゃんは迎えには来てくれないんだね。俺が闇の迷路から抜け出したら希望と言う光が見えるの?その光はどこにあるんだよ!真っ暗で見えないから迷子なんじゃん!壮ちゃん!教えてよ!いつだってわからない事は聞きなさいって言ってたじゃん。自分で見つけなさいって壮ちゃんなら言うのかな?壮ちゃんは俺に厳しかったよね。なんでも自分でやりなさいって見てるだけで手をかしてくれなかった。それは俺の為だったの?俺が1人で生きていけるように厳しかったわけ?1人になるのがわかってたのかよ。ズルイよ壮ちゃん。見守るぐらいしててよ。小さい頃はずっとそうしてくれてたじゃん。手は貸さないけど近くでちゃんと見てくれてたから俺は出来たんだよ。

『大輔!おかえり!ごめん!大輔!ありがとう!』

『ただいま!慶太郎!お前が体験した事を俺も体験しただけだ。いい経験なんじゃねーの。外がこんなにもいいとこだって気づけたしな!慶太郎!一緒に卒業するぞ!』

『あぁー。大輔!俺、高校受験してみるよ』

『おう!違う学校行っても俺らはずっと仲間だ!だから俺はバラバラになっても不安なんかねーよ!』

『そうだな。俺達どんな大人になってんだろうな』

『たいして変わんねーんじゃね?変わらないままでいる事も俺は大事だと思う。まあバカやってねーでちゃんと大人にはならねーといけねーんだろうけど大切なものは変わらないままちゃんと持っていたいっすね。無くしてしまわねーようにな』

『うん。俺もだ。大輔!』

そして俺達は全員揃って中学を卒業し各自希望の高校へと進路を進め俺もなんとかいちお進学校である高校に入学することが出来た。親父が提示してきた3つの進学校のうちのどれかに受からなければ高校の学費は払わないと言われたからだ。壮ちゃん!俺はまだ結局親父の操り人形でしかないんだね。未成年と言う無力さをまた改めて感じたよ。そしてまた怒りに満ちた15歳の俺は高校1年の夏休みに入る頃退学になり16歳になった俺は家を出た。俺にはもう帰る家はどこにもない。それでも壮ちゃんは俺に生きろって言うの?壮ちゃんは言うよね。所詮無力な未成年がどうやって生きていけばいいんだよ。ねえ?壮ちゃん!聞いてる?教えてよ。お願いだから。
『よお!大輔!久しぶり。高校生活はどうっすか?』

『慶太郎!どうしたんだよ!誰にやられた?お前進学校だろ!』

『辞めましたよ。俺なんかが進学校なんて似合わないでしょ?所詮クズですからねー。大輔!俺まだ死なないの?』

『はあ?何言ってんだお前!バカだろ!とりあえず家入れよ。ほら!顔冷やせ!お前学校辞めてどうしてたんだよ?なんで連絡してこねーんだよ!』

『死ぬ場所がどこにあるのかさまよってましたよ。そしたら変な奴にからまれまして。でも俺は負けてませんからね。きっちり片付けときました。大輔!ビールある?』

『あぁ。慶太郎!俺、お前には生きててほしいよ。お前なんでそんなに死にたがるんだよ!そんな急がなくたってどうせ人間みんないつか死ぬんだよ。急いで死ぬ必要はねーだろ。俺ともっと遊んでからでもいいじゃねーかよ!』

『そうっすね。じゃあ何して遊びますか?俺はもう帰る家はないんで貯金が底をつけばもう終わりだけどな』

『慶太郎!今日俺の高校の先輩と遊ぶんだよ。お前も付き合えよ。2つ上の先輩なんだけど望さんは顔広いから俺らが生きる道あるかも知んねーだろ』

『生きる道か。なんで生きるんだろうな』

俺は夏の終わりまで死に場所をさまようかのように喧嘩に明け暮れ壮ちゃんが迎えにきてくれるのを待っていた。夏の終わりと共に俺も壮ちゃんの所にいけると思いながらずっと待っていたんだ。それでも壮ちゃんは俺を迎えには来てくれなかったね。その年の冬休みを迎える前に結局大輔も高校を退学になった。俺達はまだ16歳だ。大輔の高校の先輩である望さんと俺らはつるんでいて望さんの先輩である水樹さんと出逢う事により俺と大輔はここから生きる道ってやつを見つけた。俺らにとって夢も希望もない単なる生き延びるだけの道だ。水樹さんはヤクザであり俺はどうにでもなれと思っていた。早く壮ちゃんの所に行けそうだとその時はそう思うことが俺の生きる道だった。俺達は水樹さんに拾われ食う事と寝る事は出来た。

『おい!大輔!慶太郎!お前らちゃんと掃除したのか!なんだこれは?もっと綺麗に磨け!わかってんのか!コラ!便器にてめぇらの面突っ込めるぐらい綺麗に磨きやがれ!ボコボコにされてーのか!てめぇーら!』

『すいませんでした!もう一度やり直します』

『慶太郎!お前は?』

『やりましたよ。充分綺麗じゃないっすか』

『お前は本当になめてるよな!この前肋骨折ってやってもわかんねーんだもんな!死ぬか!慶太郎!』

『そうっすね。どうぞ。俺はいつでもいいっすから。早くやっちゃってください。っうぅ。痛っ。ハァハァ。っぐぅ』

『水樹さん!すいません!やめてください!慶太郎にもちゃんとやらせますから!』

『大輔!大丈夫だ。心配するな。お前は便所掃除してこい!』

『俺は慶太郎を失いたくないっす!やめてください!お願いします!』

『ほんとにお前らはバカだな!慶太郎!大輔!お前ら自分で食っていけるようになれ。俺のいる世界に来なくていい!お前らホストをやれ。慶太郎!自分で稼いで食えるようになってみろ。お前らに紹介したい人がいる。しっかり指導してもらえ!』

『水樹くんが拾った子達ってこの子達なの?かわいいわね。まだ子供じゃない』

『はい。ママに指導して頂ければこいつらはやれると思います。こいつらを俺の世界には入れたくないんです。慶太郎はちょっと手がかかるかも知れませんがよろしくお願いします。俺より出来はいいはずです』

『水樹くんがそこまで気にかけるなんて珍しいわね。わかったわ。しっかり育ててあげるわよ』

『ありがとうございます。大輔!慶太郎!今日からママの元で学んで自分で稼げるようになれ!慶太郎!死ぬのはてめぇで稼いだ金を得て俺が食わしてきた恩を返してからにしてくれよ!自分で稼げねーんだったらどこででも犬死にしてろ!』

『わかりました。水樹さんに世話になった分しっかり倍にして返しますよ。俺、借りは作りたくないんで。ママ!俺達に仕事を教えてください!お願いします!』

『わかったわ。あんた達だったらすぐに稼げるようになるんじゃないかしら?かわいい顔してるもの。でも顔だけでホストは成功しないわよ』

『はい。全て教えて下さい!』

俺と大輔は水樹さんの慕うママに徹底的に仕込まれ俺達は17歳になる年ホストとしてデビューした。大輔!俺もお前には生きててほしいからもうしばらく付き合うよ。俺達が生きるだけの道とりあえず歩もう。俺達が迷いこんだ闇の迷路に出口はあるんだろうか。大輔!もし俺達が二十歳まで生き延びていたら俺達はこの闇の迷路から少し光りを見つけた時なのかな?俺達は大人になれるんだろうか。壮ちゃん!俺は今年17歳になるよ。またそっちで俺におめでとうって言うの?もうおめでとうって言わないで。おめでとうはもういらないよ。俺生まれたくなかった。こんな事を言うとまた壮ちゃんに哀しい顔させちゃうのかな。でももう俺は生きたくない。疲れたよ壮ちゃん!俺も自殺していい?怒るよね。でも生きる意味なんか俺には見つけられないよ。

『あっ!ごめんなさい。大丈夫ですか?』

『大丈夫じゃない。あなたのヒールに踏まれて足の指折れたかも?』

『え?すいません!病院に一緒に行きます!歩けますか?』

『病院はいいから俺と昼飯付き合ってよ。夕方から仕事なんだよね。今食っとかないといけないんだ。買い物も終わったし。俺の足踏んだんだから昼飯ぐらいいいでしょ?奢るからさ!』

『だって足痛いんじゃ?折れたかもって言いましたよね?』

『そうだね。言ったかも。でも痛いよ。とりあえず行こうよ!俺腹減ったの!君の名前は?俺は慶太郎。もうすぐ17歳。君はタメぐらいだよね?』

『私は千佳。18歳です。あなたより年上だと思うんですけど。17歳がスーツ来て何の仕事?高校は?私は短大で保育士を目指してます』

『へぇー。えらいね。年上だったんだ。千佳ちゃん!俺と付き合う?俺はホストだけど特定の女はまだいないよ』

『結構です!足は痛いんじゃなかったの?大丈夫なら私は帰ります』

『ちょっと待ってよ!昼飯ぐらい付き合ってくれたっていいじゃん!俺が誘うなんて滅多にないよ!俺これでもモテるんですけど』

『そうでしょうね。だったら私みたいなのとじゃなくてもランチぐらい一緒に食べる女の子はいっぱいいるんでしょ?じゃあお仕事頑張ってください!私もバイトあるんで』

『俺は君と食いたいの!千佳ちゃん!バイトって何してんの?夜の世界?』

『違います!あなたとは違うの!ただの居酒屋です!』

『居酒屋?大変だね。酔っ払い相手だし客層低いでしょ。安いもんね!学生とか来るじゃん!そんな所で働かなくても俺がお小遣いぐらいあげるよ』

『結構です!』

『んじゃ連絡先教えて!俺の足の指折れてたらどうすんの?俺も仕事出来なくなったら困るんですけど』

『わかりました。じゃあ折れてたら連絡下さい。医療費は払います。失礼します』

マジか。ガードかてーな。俺が1回で落とせないなんてちょっとムカつくじゃん。千佳ちゃんか。せっかくかわいい顔してるのにちょっと地味だな。やべっ!遅刻する!また殴られるじゃん。梅雨が明けたら嫌な夏がまたやってくるな。よし今日も稼ぐぞ。俺がナンバーワンホストなんだ。誰にも渡さねーよ。水樹さん!俺はあなたに借りを返せます。充分な程に。ありがとうございます。
『慶太郎!おい!起きろ!慶太郎!起きろっつうの!』

『いってぇー!なんだよ大輔!』

『飯出来たぞ!早く起きろよ!今日はお前の誕生日だから稼ぎ時だな!慶太郎!早く食えよ!遅刻したらまた先輩に殴られんぞ』

『あー。つうか俺がナンバーワンなのに先輩だからってなんで殴られなきゃなんねーんだよ。しかも明らか俺の方がつえーのにあいつわかってないっすよね。俺が手出したらあいつ速攻くたばるぞ。いってぇーな!』

『慶太郎!お前絶対手を出すなよ!お前がいくらナンバーワンでも俺らはまだ17だ!先輩は先輩なんだよ。ママに迷惑かかるような事はするんじゃねーよ!歳だってごまかしてんだぞ!』

『わかってますよ!だから黙って殴られてやってるじゃねーか。マジ!ムカつくんだけど』

『お前は殴られて当然なんだよ!遅刻するお前が悪い。社会の常識だろ!早く飯食えよ!だいたい当番制なのにお前1度も飯作った事ねーよな!なんで俺がお前の飯まで作ってんだよ!』

『だってねむてーし俺料理なんかやった事ねーんだぞ。食えるかわからないもん食わされるより大輔だって自分で作った方がいいだろ?それに俺は外食でいいのに大輔が嫌なんじゃねーかよ!毎日の外食は体に悪いってどこの主婦の言葉っすか?』

『俺だってねむてーよ!俺もお前と同じホストだぞ!同じだけ働いてんだ!確かにお前の料理か何なのかわからねーもんは食いたくないけど外食ばかりは体に悪いに決まってるだろ!俺ら体壊したら稼ぎねーんだぞ。これだから坊っちゃん育ちは困るんだよ!』

『うるせーな!坊っちゃんって言うんじゃねーよ!俺とりあえず先にシャワー浴びてくるわ』

壮ちゃん!今日は七夕です。俺が生まれてしまって17年目になりました。俺と大輔はマンションを借りてもらって住む家に困る事はなくなり金も得ることが出来ています。もちろん家賃は自分達で払っているよ。大輔は隣の部屋を借りてるんだけど俺が家事なんか出来ないし色々と面倒見てくれてる。大輔とはなんだか兄弟みたいだよ。ホストになって初めての誕生日です。くだらないぐらいおめでとうって言われるんだよ。それでも我慢してなきゃならない。壮ちゃん!俺はどこへ向かっているんだろう。

『慶太郎!早くしろよ!行くぞ!やっと来年には俺達車の免許取れるな!早くしろって!電車行っちまうぞ』

『もうダルいよー!だからタクシー使えばいいじゃん!金はあるじゃねーか』

『いくら稼いでいるとは言えいつまた住む場所を失うかなんてわかんねーんだぞ!無駄遣いはやめろ!帰りはタクシー使ってんだから行きぐらい電車で我慢するしかねーだろ!』

『大輔くん!車の方が維持費かかると思うんすけど。免許なくても乗ってたじゃねーかよ!大輔は車が欲しいだけだろ。まあ俺の方が誕生日が先だから免許取るのは俺の方が早いな!』

『いやお前が教習所にまともに通えるとは思えねーから結局変わらねーと俺は思うけど!お前起きねーじゃねーかよ!お前は何ヶ月かかるんだろうな?俺が9月に誕生日だからたぶんお前が教習所さぼってる間に追い越しちまうと思うぞ!』

『あーそう。まあ確かに。免許取るまでがダルいよな。毎日酔い潰れてんのに教習所なんか通える気がしねー。休みを取って田舎の方行ってさ合宿で短期集中のコースがラクかもな?大輔も一緒に取りに行かね?』

『おーそれいい!仕事しながら教習所通いはキツイだろうしな。まあ言ってもまだ1年先の話しだ。だから金の無駄遣いはやめとけよ!俺達は親を頼らず自分達で生きていくしかないんだからな。だいたい慶太郎!お前の金銭感覚は異常だ』

『そうですね。でも俺のお小遣いで全員の酒やタバコも買ってやってたじゃねーか。なあ大輔!俺ら中学の時と今とではどっちが幸せなんだよ?』

『さあな。どっちも幸せなんじゃね?なんだかんだあっても結局生きていられるんだからな』

『生きる事は辛い事でしかないと俺は思ってるけど。大輔はえらいね。小さな幸せでも見つけられんだな』

『不幸だって思ってたって生きてる以上楽しみを見つける方がいいだろ。慶太郎!お前はなんでそんなに死にこだわるんだよ。お前が言いたくないなら言わなくていいけど生きる事も当たり前ではないんじゃねーの?俺達たぶん当たり前に生きていられるわけじゃねーんだと俺は思ってる』

『大輔!俺もそう思ってるよ。俺達は生かされてるんだってな。だから俺はしんどいね。俺の意思に反して俺は生かされてる』

『慶太郎!俺はお前が生かされてて良かったよ!お前と出逢えたからな!あっ!電車来るぞ!』

『あぁ。そうだな。おい!大輔!走るのかよ?次のでいいじゃん!マジか!ハアハア!疲れるから走りたくねーっつうの!あっ!千佳ちゃん?だよね。久しぶりだね。全然連絡くれないんですね』

『あっ!こんにちは。足は大丈夫だったんでしょ?だったら用はないじゃない。じゃあ私は降りるから。これからお仕事?頑張ってね。慶太郎くん』

『まあなんとか大丈夫みたいですけど心配ぐらいはしてくれんのかと思ってたんすけどね。千佳ちゃんも頑張ってよ』

『慶太郎!誰だよ?あんな子、客にいたっけ?』

『いやいねーよ。どう見てもホストクラブに通うような子じゃないでしょ。俺がナンパしたんだけどまったく相手にされなかった唯一の女だ。まあ俺も連絡してなかったんだけど。なんかこうも完全に相手されないと意地になりそうだな』

『かわいい子じゃん。まあちょっと地味と言うかおとなしい感じだけど。慶太郎が本気になるのはあーゆうタイプなんだろうな』

『はあ?俺は特定の女を作る気はねーよ』

壮ちゃん!今日は店で誕生日のお祝いだってたくさんのプレゼントを貰ったしいい酒もあけてもらって随分と稼ぎました。俺が17年間生きてしまっている中で今こうして自分でお金を稼ぐようになってわかった事が1つあります。お金で愛は買えないということを今日つくづく感じました。たくさんの人達におめでとうと言われて高価なプレゼントを貰っても俺は何一つ満たされていない。壮ちゃんが祝ってくれたチビの頃の3年間と最後に祝ってくれた13歳の誕生日が俺には1番記憶に残る誕生日でした。小学校の6年間は1度も誕生日を祝って貰えなくてもう俺も自分の誕生日を忘れていたぐらいだったもんね。そして今日迎えた17歳の誕生日は大勢の人達に祝って貰ったのに俺は虚しいだけでした。だからやっぱりおめでとうは言われたくないよ。壮ちゃんだって俺のそばにいてくれないのにおめでとうなんて言わないでよ。祝ってくれるんだったら俺のそばで祝ってよ。壮ちゃん!俺、壮ちゃんに逢いたい。17歳の誕生日は壮ちゃんにとても逢いたいと思う誕生日でした。