香港で私に
思い出の一夜をくれた
その人は
こんなにも近くにいたっていうの?




あの日、私を救ってくれた、
その人はずっと、
目の前に居続けたって言うの?


考えれば考えるほど、
わからなくなる。




私に降り続いた
真っ白な雪の世界。



寒い、
閉ざされた世界に
彩りを添えてくれたのは
貴方だったの?





何時しか鳴りやんだ
携帯電話を
グランドピアノの上に置く。



ピアノの椅子に、
体を支えるように腰かけた時、
音楽室のドアが、
ガラガラっと大きな音を立てて開かれた。



姿を見せたのは彼。

宮向井雪貴。




「悪い。
 唯ちゃん、携帯忘れた。

 落ちてなかった?」


彼の問いに、
私は黙ってピアノの上を指差す。

彼の携帯は着信を
告げるランプが点滅している。


彼はその携帯電話を手にして、
私にゆっくりと向き直った。


「見た?」


真っ直ぐに見つめてくる
彼の目に
思わず私は目を逸らしてしまう。