「そうね。

 凄く素敵な
 天の調べに仕上げてくれたわね。
 
 とっても嬉しいわ」

「そう。

 唯ちゃん、俺に惚れた?」


彼の問いかけに
にっこりと微笑んだ。



彼がAnsyalのTakaかもって
思った時期もあった。


だけど……こうやって、
ラフマニノフを弾きこなし、
天の調べを
私でも思いもしなかった風に
仕上げてくる彼を間近で見ていると
やはりTakaではないのかもっと
思える私もいる。


彼を見る視線は、
会うたび会うたびに、
疑問を感じずにはいられない。


ただTakaの指癖では
ラフマニノフを
弾きこなすことが
出来るとは思えない。



「あっ、もうこんな時間。

 今から用事があるんだ」


彼は壁時計に
視線を向けてからそういうと、
慌てて音楽室を飛び出していく。


彼が飛び出した後、
彼が居たはずの周囲に、
落ちた携帯電話の落し物。


拾い上げた時、
着信を告げる
知らせが背面液晶に浮かぶ。



call 
亀城託実(きじょうたくみ)。



見ちゃいけないっと思いながら
思わず見えてしまった
その名前に
私は過剰反応してしまう。