「だいぶん、
 まとまってきたんじゃないかしら?
 
 後は一緒に演奏してくれる
 オーケストラの癖よね。
 
 オーケストラの演奏の仕方で、
 だいぶん変わってくるんじゃないかしら。
 
 18変奏は、
 この曲の中でのは凄く有名な部分だから
 この場所でクラシックを
 知らないお客様も弾きこめる。

 だからもっと宮向井君らしさを
 出せるようにしたらいいんじゃないかしら?

 19変奏は、
 もっと夢から覚めなさい。

 すばしっこく動き回るから、
 もっと一つ一つの音を大切に。

 21変奏は低音が蠢くでしょ。
そこから、
 時折現れる高音の音色の意味をもっと考えて」



楽譜に視線を落としながら、
紡いでいく感想を聞きながら、
彼は繊細な字で
丁寧に印を書き加えていく。


「有難う。

 このまま、
 練習していけば間に合うかな?」

「間に合うかなじゃなくて、
 間に合わせましょう。

 私の知り合いで、
 オーケストラでにいる友達がいるから、
今度は、
 その楽団に手伝ってもらいましょう。

 ピアノ単独よりは、
 やはり大分印象が変わると思うから。

 またスケジュールが都合ついたら、
 連絡するわね」


彼にそう答えながら、
腕時計に視線を落とす。


時間はお昼をすぎ13時前。