軽く両手を組んで、
ウォームアップをした宮向井君は
ゆっくりと鍵盤の上に、
美しいアーチ型に両手を広げると
目を閉じて軽く深呼吸をしてから、
鍵盤の上に指を滑らせ始めた。



主題部分の動機が
三度繰り返される序奏。


オーケストラが
主題を間欠的に演奏する第1変奏。


そして訪れる、主題。

主題の後は、
最後の24奏まで様々なスタイルで
演奏が続いていく。

第ニ変奏では、装飾が増え
第四変奏では、
テンポが増えて掛け合いが増える。


かと思えば、
第六変奏ではピアノのフレーズが
一フレーズごとに緩やかになる。


変奏の一つ一つが、とても深く
奥深い構成になっている。


宮向井君の指先から、
美しく激しく紡ぎだされる
音色を聞きながら、
楽譜に甘い部分を印づけながら
変奏ごとに、細かく分けて
一変奏ごとの完成度を高めていく。


一曲を通しで演奏すると、
約30分。


集中し続ける時間は、
何時しか
三時間を越えようとしていた。


最終変奏でもある24変奏を弾き終えた彼は
静かに鍵盤から指を離した。



「唯ちゃん、どう?」


彼は少し疲れた
表情を見せながら
私の方をゆっくりと見つめる。