一人、
宮向井君の
レッスン室のピアノで
弾きこんでいると、
やがて彼が姿を見せる。



「おはよう。
 唯ちゃん」



優等生らしく
いつものように、
カッチリと制服を着こなして
姿を見せる彼。



「おはよう」

「夏休みなのに、
 唯ちゃんごめんねー」

なんて謝りながら
近寄ってくる。


「夏休みも何も、
 私たち教師には関係ないから。

 ごめんね。
 この間は先生まの都合で夏期講習出来なくて。

 さっ、気を引き締めて
 コンクール本選に向けて、
課題曲から順番に仕上げていきましょうか」


ピアノ椅子を
宮向井君に譲ると、
私はその隣に、
パイプ椅子を用意して座る。


「唯ちゃん、本選なんだけど、
 オーケストラとあわすんだよね」

「本線はオーケストラと合わせるわよ。

 私も高二と高三でトライして、
 高三ではいい結果残せたのよね」

「知ってる。
 唯ちゃんの名前、過去の受賞者の中で見つけた」

「見つけられちゃったか……。

 大丈夫。
 宮向井君もいい結果残せるよ。

 ただ今回、一人、宮向井君の宿敵になりそうな子が
 居たのよね。
 
 確か……式部学院の高校三年生」」

学生時代の記憶を掘り起こしながら
私は経験者として、ピアノ講師として
宮向井くんの指導に、こうして夏休みや
放課後の時間も関わっている。


今回、宮向井君が受けるコンクールは
日本では有名なコンクール。