あんなにも逢いたかった田口が 目の前にいる
あんなにも話したかった田口が 目の前にいる
「ごめん…」
――…ドクン…
胸を横切るのは 彼の重みのある声
「佐藤が俺のことを思ってくれたこと…前から知ってた。…そんで…」
『…』
泳いでいた田口の瞳が 明乃1点を見つめてくれた
「…だけど俺は……、茂好が好きだから…」
『…うん。うちも…、迷惑かけて…ごめんねっ』
精一杯の笑顔で 田口に誤った
今までこぼしたことのないような キレイな笑みで――
「…あぁ」
『田口!』
明乃に背を向け 走り出そうとする彼に――
『また、教室でね…!』
すると田口は チラリと笑顔を見せてくれた
“茂好が好きだから…”
絶対辛いと思っていたのに 案外平気だった――
なんでだろうね?
田口の1言で 私は笑顔になったり 泣いたり 怒ったり――
それでも彼が好きだったんだ
“好きだったんだ”
ズルズルと引きずっていた思いとも さよなら
明乃は 真冬の空を見上げる
この日の空は なんだか笑っている気がした
田口への思いを胸に焼付け 明乃は歩き出した――