《続》俺様ホストに愛されて



「美久ー、パパが落ち込んでるからイイコイイコしてあげて」



「えー、やだー」



大好きなアニメが始まったからか、俺に見向きもしない美久。



や、やだ……って。


初めて美久に拒否された。



親離れってやつなのか?



でも、早過ぎないか?



「美久、パパが泣いちゃうでしょ?早く早く」



「きょうはりくがするって。りく、パパんとこいってあげて」



美久以上にテレビに釘付けになっている李久は、美久の声に反応しなかった。




こうやって徐々に親元から巣立って行くのか……。



美久が嫁に行く日もそう遠くないのかもしれない。



「パパー?」



「ん?どうした?」



少し恥ずかしそうに上目遣いではにかむ美久に、さっきまでのダメージが薄らいで行く。



俺ってこんなに単純ヤローだったか?



「いっしょにおふろはいろー」



「よーし、今日はなにして遊ぶ?」



「んーっとね」



まぁでもこの笑顔が俺に向けられている内は



俺は単純ヤローにしかなれないんだろうな。




【fin】










【俺様パパの溺愛奮闘記】


その2








「ゆうちゃん、みくねピーマンたべれるようになったよ」



お気に入りのピンクのワンピースを着た美久が、嬉しそうに結翔に向かって微笑む。



「すごいじゃん。えらいね、美久」



「えへへー」



頭を撫でられて嬉しそうにはにかむ美久。



結翔の奴め。


どれだけ美久をたぶらかしたら気が済むんだ?


俺の美久を横取りしやがって。



「ピーマンがなんだよ‼オレなんかナスビたべれるもんね‼」



結翔とは違ってかなりの悪ガキっぷりを発揮する愛翔が自慢気に鼻をすすった。



「みくだってたべれるよ?」



ムキになって言い返す美久。



ガキってなんでこんな下らない言い合いをして見栄を張りたがるのかが不思議だ。



「みくはカボチャたべれねーだろ?オレはたべれる」



「だってカボチャきらいだもん」



プクッと頬を膨らませる仕草までもが可愛くて仕方ない。




けど……。



「ゆうちゃん、グミたべる?」



「ゆうちゃん、あいとがイジメる‼」



「ゆうちゃん、みくのことすき?」



「ゆうちゃん‼」



なんでもかんでもゆうちゃんゆうちゃんって……。



家に遊びに来ていた結翔の顔をまじまじ見つめる。



美久は爽やかフェイスの男がタイプなのか?



目が大きくて可愛らしい顔立ちをしている結翔は、まだ6歳だっていうのにおっとりした雰囲気を醸し出している。



ガキのくせに生意気な。



大体、俺はこういう爽やかヤローが1番嫌いなんだ。



にしてもこいつ……。



ヒロトそっくりだな。




雰囲気とか仕草とか……。



さすが親子なだけはある。



「バーカバーカ、みくのバーカ」



「バカっていうほうがバカなんですー‼あいとのバーカ」



「うっせー、バカみく‼」



同じ兄弟なのに、こうも性格が違うもんなのか?



好奇心が旺盛でガキ大将の愛翔は、いつも美久にだけ悪態をつくクソ生意気な性格をしている。



家にいても悪さばかりするから、ユメも手を焼いているみたいだ。



2、3日前、買ったばかりのパソコンに牛乳をかけられたとヒロトがボヤいていたのを思い出した。



「あいと、みくをイジメるなよ」



「ふんっ、バカゆうとにはかんけーねーだろ‼」



おもちゃの剣を振りかざす愛翔は、それを結翔に向けて身構えた。



「愛翔、危ないからそれは置いときなさい」



「そうだぞ、愛翔。お前にそういうの持たせたらロクなことになんないからな」



ユメとヒロトが口々に愛翔に言う。



そんなことを言ったって、余計反抗するだけだってわかんねぇのか?




「うっせーババア」



「バ、ババアって……あーいーとー⁉誰に向かってそんな口きいてるの?」



笑顔を引きつらせながら、ユメが愛翔の側に歩み寄る。



「おい、ムキになんなよ。ガキの戯言だろ?」



「リュウは黙ってて。これはうちの問題なの」



だったら人んちでやるんじゃねぇって言ってやりたかったけど、ユメの顔が余計怖くなりそうだったからやめておいた。



楽しそうに逃げ回る愛翔をムキになって追いかけ回すユメは、大人気ないことこの上ない。



ヒロトはやれやれといった感じでそんな2人を見つめている。



多分、日常茶飯事の出来事なんだろう。



それにしても……。



逃げ回る愛翔は昔の俺にそっくりだ。




自分のガキの頃を思い出して思わず笑みが零れた。



「パパー」



満面の笑みを貼り付けて突進して来る美久を腕を広げて迎え入れる。



俺の首に手を回した美久は恥ずかしそうにそっと耳元で囁いた。



「みく、大きくなったらゆうちゃんとけっこんするね」



その言葉に俺の中の何かが音を立てて崩れた気がした。



「ヒロト……お前んちの息子にだけは美久は絶対やんねぇからな‼」



「俺を睨むなよ。そんなの子ども同士の問題だろ?」



呆れたように笑うヒロト。



「そうだよリュウ。ヒロさんに言っても意味ないじゃん」



妃芽までヒロトの味方しやがって。



「とにかく……美久はどこにも嫁に出さねぇ‼」





「手ぇ出したらお前の息子だろうが関係ねぇ。ただじゃ済まねぇぞ」



美久を抱き上げてその小さな体を力いっぱい抱き締める。



「パパいたーい‼」



俺の腕の中で、下ろしてくれと言わんばかりに必死に身をよじる美久。



「お前……将来絶対美久ちゃんに嫌われるぞ。そうなった時の落ち込み具合が楽しみだよ」



爽やかに笑いながら毒を吐くヒロト。



こいつはたまにえげつないことを口にする。



爽やかヤローを嫌いなのも、実はこいつのせいだったり。



キッと睨み付けてやったけど、ヒロトは面白おかしく笑ってるだけ。



マジでこいつだけは……。



「パパ」



身をよじるのをやめた美久が俺に向かって微笑みかけた。