独占欲が強くて俺様なパパを、子どもはどう思うのかな。
娘だったら本当に嫁に行けないかもしれないけど、その時はママが味方してあげるね。
なんてかなり先のことを考えていると、自然と顔がにやけて来た。
元気に産まれて来てね。
パパとママの願いはそれだけです。
そしてどうか
こんなパパを嫌いにならないであげてね。
〜パパの憂うつ〜
【fin】
【俺様パパの溺愛奮闘記】
その1
あれから10ヶ月。
あたし達の間に待ち望んでいた赤ちゃんが産まれた。
命名
美久(みく)
早産だったから少し小さめで産まれたけど、元気な産声を上げてくれた。
────4年後────
これは4歳を目前に控えた美久と、その父親であるリュウの物語。
最近の俺の楽しみは娘と息子の成長した姿を見ること。
2人共同じくらい可愛いのに、娘をひいきしてしまうのは俺が男親だからだろう。
「あ、おかえりー。今日もお疲れ様」
そう言って迎えてくれたのは、昔から変わらない妃芽の笑顔。
この笑顔を見るだけで、仕事でたまった疲れが一気に吹き飛ぶ。
「美久と李久(りく)は?」
「2人共テレビ見てはしゃいでる」
ネクタイを緩めながら顔が綻ぶ。
俺が帰るといつも嬉しそうに飛び付いて来る美久が可愛くてたまらない。
自然と足取りが軽くなって心が弾む。
一日の中で最も幸せなこの時間を、どれほど待ちわびたことか。
それほど
俺は親バカになっていた。
「パパおかえりなさーい」
リビングのドアを開けた途端、キラキラと目を輝かせた美久が一目散に駆け寄って来る。
「ただいま。いい子にしてたか?」
小さな体を抱き上げると、美久は声を出して楽しげにきゃっきゃと笑った。
「してたよー!でもね、りくはわるいコだった」
「テーブルにお絵描きしたんだよ」
美久が指さしたところを見ると、2歳児が書いたと思われるお世辞にも絵と呼べるものじゃない代物が目に入った。
「油性マジックで書いたから消えなくて」
妃芽が苦笑いをしながら李久の頭を優しく撫でた。
「ほーんと李久はイタズラ大好きなんだから」
「だいすきってなにー?」
首を傾げながらそう聞く美久は、最近色んなことに興味を示す。
簡単に説明してやると、理解したのか美久は満足そうに笑った。
「じゃあパパはママがだいすきなの?」
「そうだな。けど美久や李久のことも大好きだぞ」
「ふーん。みくはゆうちゃんがだいすきー‼」
ゆ、ゆうちゃん……って。
誰だ?
「誰だよ、それ」
まさか……男か?
「ゆうちゃんはあいとのおにいちゃんだよ」
愛翔(あいと)はヒロトんちの次男坊のことだ。
ちなみに美久と同い年で、いわゆる幼なじみみたいな関係にあたる。
ヒロトと同じ時期に家を建てた俺達は、示し合わせたわけではないのに偶然隣同士の家になった。
「パパとゆうちゃんだったらどっちが好きだ?」
そんなことを聞く俺に、妃芽がクスッと笑った。
「ゆうちゃん‼」
天使みたいな美久の笑顔が、これほどまでに心に突き刺さったことがあっただろうか。
ゆうちゃんと口にする美久に、今までにないくらいのダメージを負わされた。
「もー、子どもの言うこと真に受けてどうすんの」
クスクス笑いながら妃芽が俺の肩をポンと叩いた。
「美久ー、パパが落ち込んでるからイイコイイコしてあげて」
「えー、やだー」
大好きなアニメが始まったからか、俺に見向きもしない美久。
や、やだ……って。
初めて美久に拒否された。
親離れってやつなのか?
でも、早過ぎないか?
「美久、パパが泣いちゃうでしょ?早く早く」
「きょうはりくがするって。りく、パパんとこいってあげて」
美久以上にテレビに釘付けになっている李久は、美久の声に反応しなかった。
こうやって徐々に親元から巣立って行くのか……。
美久が嫁に行く日もそう遠くないのかもしれない。
「パパー?」
「ん?どうした?」
少し恥ずかしそうに上目遣いではにかむ美久に、さっきまでのダメージが薄らいで行く。
俺ってこんなに単純ヤローだったか?
「いっしょにおふろはいろー」
「よーし、今日はなにして遊ぶ?」
「んーっとね」
まぁでもこの笑顔が俺に向けられている内は
俺は単純ヤローにしかなれないんだろうな。
【fin】