《続》俺様ホストに愛されて



「赤ちゃんが出来た‼それだけだし……勝手に1人で怒ってれば?じゃあね‼」



リュウの態度にムカついて、思わず大きな声でそう叫んだ。



喜ばしいことなのに、キミの存在をこんな形で伝えることになってごめんね。



感情のままに席を立ったあたしは、小走りでお店の入口へ向かった。



オシャレな店内が歪んで見えるのは涙のせいで、あたしはそれが頬に落ちないように必死に呑み込もうとした。



せめて外に出るまでは……。



木製の扉を開けようとした瞬間、誰かに腕を強く掴まれた。



誰かなんて考えなくてもリュウしかいないけど。



「勝手に出て行こうとすんなよ……」



後ろを振り返ることが出来ない。



リュウになんて言われるかわからないから。




「それと……走るなって。もう1人の体じゃねぇんだから」



「う、うん」



あまりにも優しいリュウの声色に、さっきまでの怒りが鎮まって行く。



「大事な奴が出来たって言うから男かと思っただろ?紛らわしい言い方してんじゃねぇよ」



「ご、めん」



それよりも……。



どうしてそんなに嬉しそうなの?



顔が綻び過ぎて、いつものリュウじゃないみたい。



「なんでそんなに浮かない顔してんだよ?」



「え、だって……産んで、いいの?」



子ども、嫌いなんじゃないの?



「はぁ⁉産む以外の選択肢なんてねぇだろ」



「だって……子どもいらないって蓮夜さんと喋ってたじゃん」



いらないってはっきり言ってなかったけど、そんなニュアンスの言い方だった。



「んなこと言ってねぇし。俺、子ども好きだしな」



「えー⁉ウソ」



じゃあ


思い詰めたあの顔は一体なんだったの?



「ウソじゃねぇよ。あの時、お前最後まで話聞いてなかっただろ?」



「えっ⁉そうだっけ?」




聞いてたつもりなんだけど。



あの時はショックを受けたこともあって、聞き逃してたのかもしれない。



「娘が出来たら……って考えたら、嫁に行く日のことが浮かんで寂しくなったんだよ」



「な、なにそれ……」



それであんな顔してたの?



しかも娘が出来たらって、まだ結婚もしてないそんな時期に……。



普通そんな先のことまで考えないよ?



「あはは……‼リュウって……っ前から思ってたけどかなりぶっ飛んでるよね‼普通そんなこと考えないって‼」



言うことがハチャメチャだし。



「笑うな」



お腹を抱えて笑っていると、リュウのスネたような声が聞こえた。




「だって……嫁に行ったらって……‼何十年先の話?ぷふっ……あははっ」



ダメだ、面白すぎる。



「なにがそんなに面白いんだよ?」



「ご、ごめっ、あはは……」



だってだって、子どもを嫌いだと思ってたから。



その逆だったことがたまらなく嬉しい。



愛する人との赤ちゃんを産めるって、こんなにも幸せなことなんだ。



「もし女だったら……俺は絶対嫁にやらねぇからな‼」



「そんなこと言ってたら娘に嫌われるよー?」



「なっ……」



まだ男の子か女の子かわからないけど、あたし達の元に産まれて来るからには絶対に幸せにしてあげたい。




独占欲が強くて俺様なパパを、子どもはどう思うのかな。



娘だったら本当に嫁に行けないかもしれないけど、その時はママが味方してあげるね。



なんてかなり先のことを考えていると、自然と顔がにやけて来た。



元気に産まれて来てね。



パパとママの願いはそれだけです。



そしてどうか



こんなパパを嫌いにならないであげてね。




〜パパの憂うつ〜



【fin】










【俺様パパの溺愛奮闘記】


その1









あれから10ヶ月。



あたし達の間に待ち望んでいた赤ちゃんが産まれた。



命名


美久(みく)


早産だったから少し小さめで産まれたけど、元気な産声を上げてくれた。








────4年後────



これは4歳を目前に控えた美久と、その父親であるリュウの物語。







最近の俺の楽しみは娘と息子の成長した姿を見ること。



2人共同じくらい可愛いのに、娘をひいきしてしまうのは俺が男親だからだろう。



「あ、おかえりー。今日もお疲れ様」



そう言って迎えてくれたのは、昔から変わらない妃芽の笑顔。



この笑顔を見るだけで、仕事でたまった疲れが一気に吹き飛ぶ。



「美久と李久(りく)は?」



「2人共テレビ見てはしゃいでる」



ネクタイを緩めながら顔が綻ぶ。



俺が帰るといつも嬉しそうに飛び付いて来る美久が可愛くてたまらない。



自然と足取りが軽くなって心が弾む。



一日の中で最も幸せなこの時間を、どれほど待ちわびたことか。



それほど


俺は親バカになっていた。