《続》俺様ホストに愛されて



リュウ……。


これはどんどんマズイ方向に進んでいってない?



「お前さ……もう本当のこと言えば?こんなことになってまで隠してたら本末転倒だろ?」



「けどっ」



「疑われてまで隠し通す必要ねぇだろうが」



「そうだな……」



リュウの言葉にヒロさんは渋々納得してみせた。



な、なに、このやり取り。


リュウはなにかを知ってるの?



「実は……」





「「家⁉」」



ヒロさんの口から出た言葉に、あたしとユメさんの声が重なる。



「そ。結婚する前言ってたじゃん。でっかい家を建ててそこに住むのが夢だって」



ユメさんの目を見つめるヒロさんの顔は、いつものように優しくて穏やかなものだった。



「言ったけど……それとあの女の人のなにが関係あるの?」



「あの人マエサワハウスの代表取締役でさ……見積もりとか色々相談してたんだよ」



「えっ⁉」



ユメさんの目が大きく見開かれる。



予想だにしていなかった答えに、かなり動揺しているような感じ。




「あたしの、ため?」



「まぁな。本当は結翔の誕生日に言って驚かせるつもりだったんだけど」



“仕方ないか”



そう言ってヒロさんははにかむように笑って見せた。



その顔からはユメさんを大事に想う気持ちが伝わって来て、あたしの心に安心感をもたらした。



「どう?これで俺の誤解もとけた?」



「とけたけど……なんでそんな大事なことを1人で決めちゃうの?」



怒った顔ではなく、今度は心配そうな表情でヒロさんを見つめ返すユメさん。



「そんな顔すんなよ……俺はただ喜ぶ顔が見たかっただけだよ。それにこれは俺の中で決めてたことだから」



「だからって……一言くらい言ってくれても」



「サプライズだよ、サプライズ」



にっこり笑うヒロさんに、ユメさんはそれ以上なにも言わなかった。



いや、言えなかった。



涙でいっぱいだったから。




「バカだよ……本当。でもっ……ありがとっ」



泣きながら笑顔を浮かべるユメさんは、本当に幸せそうだった。



そんなユメさんの肩を優しく抱き寄せて、耳元でなにかを囁くヒロさん。



「も、もー‼なに言ってんの‼バカ‼」



ユメさんの顔が一気に赤くなって、恥ずかしさを隠すようにヒロさんの背中をバシンッと叩いた。



何はともあれ、仲直り出来て良かった。




あたしはリュウと目を合わせて笑い合った。



“そろそろ2人目考えようか”



そんな会話が繰り広げられていたとも知らずに。




番外編
〜大きなサプライズ〜



【fin】



あたし、辰巳妃芽は猛烈に頭を悩ませていた。



だって……‼



生理がもうかなり遅れている。



毎月規則正しく来ていたのに。



もしかして……。



思い当たる節はたくさんある。


そういう行為をほぼ毎日のようにリュウとしてるから。


でもはっきり核心を突くような行為はまだない。



だから


今生理が遅れている理由は、はっきりとはわからない。




「おめでとうございます」



内診台の上に乗って足を広げているあたしに、カーテン越しに先生の声が聞こえて来た。



「この豆みたいなのが赤ちゃんの入ってる袋ですよ。大きさからして……10週目になりますね」



年配の女医さんは呆然とするあたしに次々と言葉を投げかけて来る。



「そうですか」


「はい」



としか返事を返せなくて、説明されたことを解釈するのに頭が追いつかない。



さらには出産予定日まで告げられて、あたしの頭はパニック寸前になった。



リュウとの赤ちゃん。



それはかなり嬉しいし、喜び以外の感情はないけれど。



あたしが……ママになる?


リュウがパパ……?



なんだかそんな実感が湧かなくて、それが自分の身に起こったことだとどうしても思えない。




「妃芽?」



「えっ⁉うわっ」



目の前には怪訝な顔をするリュウのドアップ。



やば、またぼんやりしてた。



「な、なに⁉」



「具合悪いのか?全然減ってねぇじゃん」



「ううん、そんなことないよっ」



前から行きたいって言ってたイタリアンのお店に、仕事が早く終わったリュウが連れて来てくれた。



だけど今はそれどころじゃなくて、赤ちゃんが出来たことをリュウにどう伝えようか迷っていた。



目の前にあるパスタをじーっと見つめる。



正直、味なんて全くわからない。





それもこれも、いつの日かリュウが子どものことを蓮夜さんと話していたのを思い出したせい。



「可愛いとは思うけど」



そう言って語尾を濁したリュウのことを、今になって思い出した。



リュウがもし


子どもなんていらないと思っているとしたら……。


どうしよう。



そんなことを考えていると、大好きなパスタが喉を通らなくなってしまった。



だって


もし堕ろせって言われたら……。


このネガティブ思考をなんとかしたいのはやまやまだけど、ポジティブになんて考えられない。



あの時のリュウの姿があたしの中にはっきり残っている。


どこか思い詰めたようなリュウの顔が。



でも、あたしの答えは決まってる。



なにを言われても産むつもり。



大げさだけど


別れることになったとしても、あたしは産むことを選ぶ。




「俺といる時に他のこと考えんなよ」



「え、あ……ごめん。でも大事なことだし」



フォークにパスタを巻き付けて口へと運ぶ。



食べたくなくても、赤ちゃんの為に食べなきゃ。



そう思いながら無理やり水で流し込む。



「なんだよ、大事なことって?俺には言えないわけ?」



ムスッとしながらリュウが不機嫌な声を出す。



手元にあるお皿を見ると、食べ終えたのかすでに空っぽになっていた。



昼間働くようになってから、リュウは髪を黒くした。



スーツもネクタイを締めて着るようになった。



昔のリュウも好きだけど、ネクタイを締めた今のリュウの姿も好き。