《続》俺様ホストに愛されて



その自信はどこから湧いて来るの?



いつも思うけど、リュウって本当にすごい。



地位を捨ててホストを辞めるのだって、本当は不安だらけで仕方ないはず。



新しいことを始めるのに、不安がない人なんていないはずだ。



だけどリュウの場合は


こうと決めたら迷いは一切ないように思える。


自分が選んだ道を正々堂々と歩いて、いつだって眩しく輝いている頼もしい存在。


あたしは……。

そんなリュウのことがずっと羨ましかった。


あたしが選んで来たものは全部、後悔の連続ばかりだったから。



だけどね……。


リュウを選んだことだけは後悔してないよ。


今あたしの隣にいるのがリュウで良かったって心の底から思える。



「言っただろ?妃芽の為ならなんでもしてやるって。認めてもらえるまで努力するっつってんのに、認めてもらえねぇはずねぇよ」



大きな手があたしの頭の上にゆっくり置かれた。




ドクンと大きく飛び跳ねる鼓動。



「俺が頑張れるように……一つだけ約束してくれると嬉しいんだけど」



「約束?」



首を傾げたあたしに、リュウはフッと笑った。



「認めてもらえたら……」



腕をグイッと引き寄せられて、あっという間にリュウの腕に包まれた。



ドクンドクンと高鳴る鼓動。



「その時は……」



逞しい筋肉質な腕が、ギュッとあたしを抱き締める。



なぜかリュウの声が弱々しくなった気がして、緊張感が一気に増した。



さっきまであんなに自信満々だったのに。



あたしは息をするのも忘れて次の言葉を待った。











「俺と結婚してくれる?」










コンコン



「妃芽ー?入るよ」



ドアをノックする音が聞こえて、おもむろにそこを見た。



ガチャ



返事をしてないのに開けて入って来る亜希に苦笑いを浮かべる。


せっかちな亜希らしいけどね。



「わー‼」



そんなあたしにお構いなく、亜希は歓喜の声を上げて駆け寄って来る。



裾がふんわりした淡いピンク色のドレスに身を包んだ亜希。



小さなバラのコサージュまで付いていて、目一杯オシャレしてくれている。



「まさか妃芽が1番乗りだとはね」



まだ準備の整っていないあたしに、亜希が後ろから声をかけて来る。



鏡越しに亜希と目が合って、思わずにっこり微笑んだ。




「でも良かった……妃芽が幸せそうで」



満面の笑みを浮かべる亜希。



「おめでとう」



「ありがとう」



メイクさんに一言断ってから、あたしは後ろを振り返った。



いつもいつもあたしのことを心配して時には叱ってくれた亜希。



亜希の優しさや強さに、どれだけ救われたかわからない。



「リュウ君と幸せになってね」



「うん……ありがとう」



「なにかあったらいつでも相談してよね。あたしはいつだって妃芽の味方だからさ」



こんな日だからかな。


亜希の言葉が胸に沁みる。




「ちょっ……なに泣いてんの?」



「だって〜っ……」



なんだか嬉しくて。


亜希がいてくれて良かった。



「もー、ほら‼あんまり泣くとメイクが落ちちゃうでしょ?」



亜希は手にしたハンカチであたしの目元を拭ってくれた。



「う〜っ……だっで」



「ほーんと泣き虫なんだから。そのくせ意地っ張りだし」



やれやれといった感じで亜希が苦笑いする。



「リュウ君の苦労が目に見えるよ」



…………。




「ま、そこも含めて妃芽を選んだんだもんね。なにも心配することないか」



独り言のように呟く亜希に向かって唇を尖らせる。



意地っ張りなところを直さなきゃいけないのはわかってるんだけど中々難しい。



直そうって気はあるんだけどね。



「とにかく……1番におめでとうが言いたかったの」



それだけ言ってから、亜希は控え室を出て行った。



なんだかんだ言いながらも、あたしは亜希が大好き。



これからもこんなあたしをよろしくね。



「あ、すみません。続きお願いします」



メイクさんに向かって小さく頭を下げた後、さっきまで座っていた椅子に腰かける。




着慣れない純白のウェディングドレスに、絶対にマネ出来ないような大人な女性を演出するメイク術。



鏡の中に映るあたしは、まるで別人みたい。



あのプロポーズの日からちょうど1年。



環境が変わって色々大変だったにも関わらず、リュウは宣言通りお父さんにあたしとの仲を認めさせた。



今ではあたし抜きで一緒に飲みに行く仲だったりする。



あの頑固なお父さんを認めさせたリュウって一体何者⁉


2人が飲んで朝帰りした日には、お母さんと顔を見合わせてびっくりしたっけ。



そして今日



あたし達は約束通り結婚する。





あたし達を祝福するかのような快晴の空が、一面ガラス張りの窓から覗いている。



すぐそばには海も見えて、波の音が小さく聞こえて来た。



海が見える場所で式を挙げたいというリュウの希望で、この式場を貸し切ることになった。



孤島の中にあるこの式場は最近建ったものらしく、あたし達がここで式を挙げる第1号となる。



建物はそんなに大きくないけれど、この静かな場所とゆったり出来る雰囲気がとても気に入っている。



これまでもずっと幸せだったけど、結婚するとなると意識はまた変わって来る。



付き合っていた頃とは違う責任感みたいなものが芽生えて、あたしでいいのかなっていう不安を感じることが最近よくあった。



幸せなはずなのに不安を感じるなんてかなり贅沢な話なんだけど。