《続》俺様ホストに愛されて



「いつから付き合ってんの?」



そもそも、大樹って亜希のことが好きだったの?


大樹には長く付き合ってた彼女がいたはず。


キャピキャピしすぎてて、あたしはあまり好きじゃなかったけど。



「5月ぐらいから」



ボソッと呟いた大樹。



「前の彼女は?」



「とっくに別れた。じゃなきゃ、亜希と付き合わねぇって」



気まずいのか、髪を掻き乱しながら大樹が言う。


こんな話、今までしたことないもんね。



「亜希を傷付けたら、あたしが許さないからね‼」



「わかってるよ」



ぶっきらぼうに言う大樹。

本当にわかってるんだろうか。



亜希は高校生の頃からずっと、大樹のことが好きだった。



だから二人が付き合ってるって聞いて、素直に嬉しい。



泣かせたら承知しないんだから‼




「俺より妃芽の方はどうなんだよ?」



「どうって言われても……」



「ウチに来てもらえばいいじゃない。布団も余ってるし、泊まってけばいいわよ」



答えあぐねていると、お母さんが呑気に口を挟んで来た。



「と、泊まるって……⁉なにを考えてるんだ母さんは」



お父さんがムキになってお母さんに言う。



「あら〜いいじゃない。せっかく遠方から来てくれたのに追い返せないわよ」



お父さんは少し……いや、かなり‼


頭が堅い。



のんびり屋すぎるお母さんと、いつも意見が対立する。



「しかしだなぁ」



そんな二人のやり取りはもう見慣れてる。



大樹と顔を見合わせて、苦笑いをしてみせた。




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「お父さんがリュウに一目会いたいんだって」



“会ってくれる?”



一階の待ち合い室で待ってくれていたリュウに、恐る恐るそう訊ねる。



嫌だって言われたらどうしよう。



変な緊張から手に汗をかいた。



「よっしゃ、望むところだ」



「えっ、いいの?」



嫌じゃ、ないの?



「せっかくそう言ってくれてんのに断る理由なんかねぇだろ」



そうだけど。


土壇場で急に言われたら困るんじゃないかなって。


そう思ったんだけど。



「体に障るようなことを言わねぇように気を付けねぇとな」



なんだかリュウは嬉しそうに意味深なことを言っていた。



ま、いっか。


リュウがいいんならそれで。




緊張とかしないのかな。


あたしだったらするけど。



「土産とかなんも持って来てねぇな。ちょっとそこの売店寄るぞ」



曲がり角にある売店を見て、リュウがあたしの手を掴んだ。



「そんな気使わなくていいよ。急に来たんだから持ってる方がおかしいって」



リュウの体を引き止めるように手を引っ張る。



「いや、初めが肝心だからな」



だけど逆にリュウに引っ張られて、結局売店に入ることになってしまった。



いいって言ってるのに豪華なフルーツバスケットと、お菓子の詰め合わせを購入してから病室へ戻った。




だけど、ちょっと待って‼


すっかり忘れてたけど、話があるって言ってたよね?


別れ話かもしれないって思ったんだっけ。



もしそうだとしたら、親に紹介なんて迷惑だったんじゃ……。



「入らねぇの?」



ドアを開ける手を止めたあたしを、リュウが怪訝な顔で見つめる。



「あ、いや……そのっ。リュウ、さっき話があるって言ってたから気になって」



別れ話、じゃないよね?



「ああ、それは後で言うよ。落ち着いて話したいし」



後で……落ち着いて、か。


どうしよう、ものすごく気になる。


悪い話のような気がしてならない。



「早く入ろうぜ」



そんなあたしの思いを知らずに、リュウはドアをノックした。



どうやら全然嫌じゃないみたいなので一安心。



ガラッ




ドアを開けると、目を輝かせたお母さんの顔が真っ先に飛び込んで来た。



「あら〜」



なんて歓喜の声を上げて笑顔を浮かべるお母さん。



「初めまして、妃芽さんとお付き合いさせてもらってる辰巳竜太と申します」



リュウはニコッと笑ってお父さんとお母さんに軽く頭を下げた。



「そんなにかしこまらないで下さいね。妃芽がお世話になって……こんなに遠くまでごめんなさいね」



「いえいえ、僕が勝手にしたことですから」



うわあ、“僕”だって‼


なんだか似合わない。


僕なんてイメージじゃないし。


両親を前にかしこまるリュウは、いつもと違っててなんだか新鮮。



「つまらない物なんですけど、良かったら食べて下さい」



リュウがお父さんに向かってフルーツバスケットを差し出すと、お父さんはビックリしたようにそのカゴを凝視した。



「…………」



黙り込むお父さん。



あたしはハラハラしながらその様子を見守る。



大樹も同じようにお父さんを見ていた。



「あら〜美味しそう‼気を使って下さらなくても良かったのに……でも、ありがとうね。ほらお父さん、美味しそうよ?お礼くらい言ったらどうです?」



お母さんが笑顔でお父さんの顔を見つめる。




「キミは私を病人扱いする気か?」



リュウのことが気に入らないのか、お父さんは険しい顔でそう口にした。



真っ直ぐにリュウを見つめながら、一向にその瞳をそらそうとはしない。



「ちょっとお父さん‼そんな言い方ないでしょ⁉せっかく心配してっ」



「妃芽は黙ってなさい」



「でもっ」



言い返そうとするとリュウの手があたしの肩を優しく叩いて、なにも言うなと語りかけて来た。



「妃芽さんがご両親を大切にしているように、僕も同じように大切にしたいんです。これはその気持ちの表れみたいなもんです」



一切動じることなくそう言い切ったリュウの横顔を、あたしはドキドキしながら見つめていた。



「ふん、口ではなんとでも言える。物でつろうなんて、キミの中にはそんな考えしかないのか?」



それでも悪態をつくお父さん。



もう‼


お願いだから、リュウに嫌なこと言わないでよ‼



「確かに口ではなんとでも言えます。だけど……本心なので。信じてもらえるよう努力します」



リュウ……。




そこまで考えてくれてたの……?


お世辞を言えないリュウだから、それを本心で言っているってあたしにはわかる。



そんな風に言ってもらえるとすごく嬉しい。



「ふん、どうせ口だけだろ」



お父さんはブツブツ言ってリュウの言葉を聞き入れようとしない。



「あなた、竜太君がせっかくここまで言ってくれてるんだから」



お母さんがお父さんの側に寄り添って、宥めるようにそう言った。



「母さんは口を挟まないでくれ。これは男同士の問題なんだ」



お、男同士の問題⁉



なにそれっ。



「大体その派手な髪型はなんだ?顔だけの男は女泣かせだと決まってるんだ。キミもそうじゃないのか⁉」



「ちょ、お父さん‼」



なに言うのよ‼


リュウを侮辱しないでっ‼


いくらお父さんでも、それだけは許せない。




「僕は妃芽さん以外興味ありません。守りたいと思えるのも、好きだと思えるのも生涯で妃芽さんだけです。それを一生かけて証明していきますので、見守ってて頂けませんか?」



その言葉に思わずボッと赤面する。


なにこれ、結婚の挨拶みたいじゃない?


一生をかけて……とか。


照れ臭すぎる。


こんなセリフを真顔で言えるリュウは本当にすごい。



「なっ……なにを言ってるんだキミは‼」



お父さんの瞳が動揺したように揺れる。



「親父の負けだな。いい加減諦めろって。信じてやりゃいいじゃん」



「そうよ、あなたったら。今時珍しい良い青年じゃない」



「大樹……母さんまで。この男の肩を持つのか?」



お父さんは落胆したようにしゅんと肩を落とした。



そんなにリュウが気に入らないのか……。