「え、でも制服着てんじゃん」
「留年してるからだよ」
「…留年?」
「そう。いろいろあって留年してる。って言うか、あんまり先輩と係わらないほうがいいよ?」
「……」
「言ったでしょ?あの人、有名だって」
「…有名」
小さく呟いた声と混じって、チャイムが鳴り響いた。
美奈子はソワソワしながらあたしの腕を軽く握る。
「いい噂、あんまりないから。あの人に逆らえる人いないんだから!」
「……」
「だからね、近づかないほうがいいよ」
“行こ”
そう付け加えた美奈子は、あたしの腕を離し先を急ぐ。
…椎葉 恭。
確かに美奈子と出くわした初めての日、言ってた。
有名だって。
どー言う意味で先輩なのかは分かんないけど、一つ年上だったなんて、思いもよらなかった。
逆らえる人なんて居ない。
美奈子がそう言った事を思い出したあたしは、なんだかいけない事をしたんだと、少し思ってしまった。
でも、椎葉 恭の存在を知ってるのは、美奈子だけじゃなかった。