「嫌だったら嫌って、言えば?」
気だるいままなんとか降りた階段。
その角を曲がった瞬間、不意に聞こえた声に思わず心臓が飛び跳ねる。
視線を向けるその先にしゃがみ込んでいるのは、さっきまで居た恭だった。
「なに…してんの?」
ビックリしてしまったあたしに、恭は疲れたため息を吐き捨て、咥えていたタバコを地面に押し潰す。
「つか、お前は何してたわけ?」
「別に、なにもないけど…」
「帰りたくねーんだったら言えよ」
「何で?」
「暇潰し」
「…暇潰し?」
「そう。してやんのに」
「いや、別に頼んでないし」
「俺も頼まれてねぇよ?でも、お前のその顔見てっとほっとけねぇの」
退屈だったんだろうか。
足元にある缶コーヒーの中には落ちそうなくらいに押し込まれている吸い殻。
その缶を手にした恭は一度伸びをした。
「…ほっとけないって?」
「さぁ、分かんね」
同情でもしてんだろうか。
昨日出会った母があんなんだから、そう気遣ってくれてんだろうか。
どう言う風な結果に結びつけたらいいのか分かんなかったけど、恭の行動が謎で仕方がなかった。