「うん?」
「肩、濡れてるから」
視線を向けるあたしに恭は同じ様に視線を落とす。
「あぁ、別にいい」
そう言った恭はもう一度、同じ位置に手を移動させる。
何だかよく分からないこの空気。
近くの高校の制服を着ていたから、きっとあたしと同じ高3だろう。
だけど、そんな所まで首は突っ込めなくて。
暫くすると、マンションが目に入った。
高校生になると同時に引っ越してきたマンション。
…帰りたくはないけど。
「あっ、ここなんで…」
軽く指差すあたしに恭は視線を少しだけ上に上げる。
「雨、止みそうにねーな」
マンションから視線を空に向けた恭は、沈んだ声でそう言う。
「…うん。明日は晴れるかな」
「多分な、」
「わざわざ送ってくれてありがとう。なんか、ごめんなさい」
「別に」
「…じゃあ、」
マンションの階段の屋根まで来たあたしは、そっと傘から離れる。
恭が背を向けて、階段を上ろうとした時、
「…ちょっと、若菜!」
今まさに降りて来たであろう母が溜め息を吐き捨てそう叫んだ。