多分、もう恭とは会う事ないと思ってた。

いや、むしろ会いたくないと。


「…若菜ちゃんっ、」


マンションの階段に座り込んでた美奈子が勢いよく立ち上がって、声を上げる。

その声に驚いたあたしは思わず目を見開いてしまった。


「こんな時間に何やってんのよ…」


一息吐き捨てたあたしは肩からずり落ちそうな鞄を、しっかりと掛け直し、美奈子を通り過ぎ階段を上る。


「若菜ちゃん、待ってよ」

「……」

「心配して来たんだから」

「…心配?」


足を止めて、階段から美奈子を見下ろす。


「そう。若菜ちゃんが心配だったから。…ほら、学校来てなかったでしょ?」

「って言うか、今日、1日だけじゃん」

「1日でも心配だよ。どうしたの?元気なくない?」

「……」

「あたしで良かったら聞くから」

「……」

「って、ごめん。迷惑だよね…」


戸惑った小さな美奈子の声が零れ落ちる。

そんな美奈子に一息吐き、


「ちょっと散歩しよっか」


美奈子を通り過ぎながら歩くと、ビックリするかのように慌ただしく美奈子があたしに飛びついた。


「若菜ちゃんっ、」

「もー、やめてよ。ビックリするじゃんんか」

「良かった。嫌われたかと思った」

「…別にそんなんじゃないよ」


美奈子と居ると、ちょっと調子が乱れる。

本気で悩んで、本気で迷ってんのにも係わらず、この弾けた面倒見のいい声を聞くと、悩んでた事が馬鹿みたいに乱れる。