「もうお願い!離してって!お願いだから―――…」
「嫌がってんだろ。離せよ、その女」
あたしの声を遮ったと同時に、掴まれている腕にもう一つの手が重なる。
その所為で必然的に止まった足。
見上げる先に見えたのは、
「…恭」
息を切らした恭が、あたしの腕を掴んでた。
「は?…んだよお前、」
もちろんレオは不機嫌そうに呟く。
「わりーけど。こいつ俺と付き合ってんの。触んじゃねーよ、」
「……っ、」
ツンとトゲのある言葉で返した恭の言葉に、思わず声を失う。
…どうしてなの?
なんで来たの?
「は?つか若菜、マジで付き合ってんの?お前、何も言わなかっただろ」
レオの視線を感じた。
うん。と言っていいものなのか自分にでも分かなかった。
だから、ただ俯いて、レオが離した腕を何度もさすってた。
「人の女、とってんじゃねーよ、」
吐き捨てるように言った恭に、今度は腕を掴まれ足を進めていく。
もう、何がなんだか分かんなくなってた。
「…馬鹿か、お前は」
呆れたように呟かれた声。
「なんでよ。…なんでよっ、」
なんでこんな事すんのよ。
潤んでくる瞳をじっと堪えた。
さっき見た風景がまた目に移りこむ。
次第に見えてきた、そのマンションに息を飲みこんだ。