そして顔を顰めたと思えば、お腹に手をあて軽く擦り始めた。
「…お姉ちゃん、もしかして妊娠してる?」
お姉ちゃんは少し膨らんだお腹を擦りながらもう一度ため息をついた。
「だから来たの。でも、もういいわ。若菜こっちに来たかったら来ていいからね」
「ちょ、お姉ちゃんっ!」
足を進めて行くお姉ちゃんに向かって叫ぶ。
追い掛けようとした瞬間、カツカツとヒールの音を響かせながら階段を降りてくるお母さんが目に入った。
「お母さん!?」
香水の匂いを身に纏う派手なお母さんにあたしは急いで駆け寄った。
「なに?」
「お姉ちゃん、折角来たのに何で追い返しちゃうの?」
「別に追い返してなんてないわよ」
「でも、何で帰らすような事言うわけ?」
「って言うか、あの子が出て行ったんでしょ?こんな家嫌だって、二度と帰って来ないって出て行ったんでしょ」
「でもお姉ちゃんは心配して帰って来たんだよ?なのにお母さんが――…」
「なんでもかんでもあたしを悪者扱いにしないでくれる?こっちだって散々言われてんの」
「でもっ、」
「若菜が心配する事じゃないわ。アンタも遊んでばかりいないで真面目に学校に行きなさい。先生に謝るのも面倒よ」
お母さんはフイっと顔を背けて足を進める。
真っ赤な車に乗り込もうとする母の姿を見て、駅に向かって走った。