「乗れよ」
「うん。なんかイメージ湧かないね」
「は?」
「いつも車のイメージだから。自転車乗った事ある?」
「馬鹿にしてんのか、お前」
「別に、してないよ」
クスクス笑うあたしに恭は軽く舌打ちをする。
だから余計におかしくなった。
「やっぱ降りろ。若菜、歩いて行け」
「ちょ、嫌だよ」
グッと身体を押されるのを慌てて避け、恭の腰にギュっと腕を絡ませる。
クスクス笑う恭に、更にギュっと抱きつくと、恭はペダルを踏みしめた。
多分、きっと、ずっと。
こうすることを望んでた。
やっぱ、自ら離れる事なんて、嫌。
心地いい風が頬を掠める。
ボンヤリと流れゆく景色を見つめながら、ふとさっきの事が気になった。
恭は誰と電話をしていたんだろうか。
お父さんの事を言ってたから、恭からするとあまりよくない話だろう。
でも、そんな事聞けない。
何故か聞いちゃいけないような気がした。