このまま無言で立ち去ろうとクルっと背を向けると、意識が遠のく様にフラっと頭が揺れ、こめかみに痛みが走った。
「…痛っ、」
にしても気分、悪。
早く帰ってとりあえず寝よう。
「…おい」
微かに聞こえる低い声。
彼が呼んでいるのは分かるけど、身体が反応しない。
ヤバイ。
あたし倒れちゃう?
「おい、聞いてんのかよ」
「……」
「なぁ、」
「……」
その拍子にグッと腕を掴まれたあたしは必然的に彼の方を向く。
だけど、激痛の所為で思わずさっきまで彼が寝ていたベンチに腰を下ろした。
「どした?」
「だ、大丈夫」
「大丈夫には見えねぇけど」
視界の端のほうで、彼がこっちを見ているのが分かる。
…きっと面倒くさそうに。
「ほんと大丈夫だから。ゴメン邪魔して」
もう一度、鞄を掴んで立ち上がろうとした時、椅子の角に鞄が引っ掛かりその拍子で中身が全部落下する。
…最悪。
彼が視線を向ける中、あたしは全てのものを拾って無造作に鞄の中に突っ込んだ。
未だに無表情であたしを眺めている彼を無視してその場を離れた。