未だに階段を駆け上がってきた所為か心拍が慌ただしく動く。

まだ少し荒れた息を落ち着かせるために、暫くベンチで寝転がったまま空を見上げてた。


「…綺麗だな」


普段、こうやって見上げることがないから改めて空の美しさを実感できる。


…ねぇ、お父さんが亡くなってからお母さんは変わったよ?

何でかな?

今も、お父さんが居たら…

きっと、こんな生活じゃなかったんだろうね。


多分きっと、幸せだったんだと思う。



…幸せにはなれないよ、あたし。



ガチャッ…っと不意に聞こえた音と足音で心臓が慌ただしく動き出す。

思わず、寝転んでいた身体を急いで起こすと、立ち止まってあたしを見る彼がいた。


そう、冷たい目で。


「あっ、ごめん …」


咄嗟に謝ったあたしに彼は無表情のままベンチに座り、手に持っていたビニール袋から缶コーヒーを取り出す。


「ごめん、なさい…ホントに」


何故か謝ったほうがいいと思った。

昨日、美奈子が何回も謝ってたように謝ったほうがいいんじゃないかって、そう思ったから。


ごめん、悪気はないの。

まさか、もう一度戻って来るなんて思わなかったから。