全て終わった頃には23時を回っていた。

8月半ばの気温は、こんな時間でも蒸し暑く肌をジメジメとさせる。

時折、風が吹き付けるも冷たいは感じない。


空を仰いで一息吐く。


そして頭に過るのはまた女の人の名前だった。

あれ以来、セナさんとも出会っては居ないし、この事について麗美さんにも言ってなかった。

どうするべきかは自分で判断しなくちゃいけないような気がして、誰にも何も言えなかった。


そして週明けの月曜日。

あたしはその人に会いに行こうと、そう思った。


見上げる先はこの辺りでは一番大きな総合病院で、出入り口には多くの患者さん達がベンチで休んで居た。


鞄から取り出した小さな紙切れに書かれている病室へと向かう。


303。

党利千沙と刻まれたプレートに思わず息を飲み込んだ。


ほんとに居る…


この人に会えば何かが変わるんだろうか。

セナさんが言ってたように、何かが変わるんだろうか。


ドアの前でノックをしようとする手が止まる。

何故だか分かんないけど、手が震えて思う様に出来なかった。


大きな深呼吸をし、目を瞑ったまま、あたしは軽くノックをした。


「はーい。どーぞー」


すぐに返って来た明るい声に、あたしは自然に閉じていた目を開けた。