「あれー、恭帰んの?」


一緒に来ていた男の人が、そう恭に声を掛ける。

でも恭はその声すら無視してこの場から立ち去った。


「なんだ、アイツ…」


続けて小さく呟かれた声。


「アイツ、怒ってんな」


隣からセナさんの声が届く。


「…ですかね」

「いや、ここに連れて来たこの俺にな」


そう言ってセナさんは店内をグルっと見渡し、方手を高々と上げた。

その手は招き猫のように誰かを呼ぶ。


そして暫く経って現われたのは麗美さんだった。


「あれ?帰っちゃった?」


さっきまで恭が座ってた所に目を向け、麗美さんが呟く。


「あぁ。つか、若菜ちゃんバック。他、呼んで」

「え、あっ、うん」


ポンポンとセナさんに肩を叩かれ、あたしは俯いたまま立ち上がる。

そして軽く礼をしたあたしは、その場を離れる様に控室に行った。


その瞬間、なんだか分かんない涙が込み上げてくる。