「なぁ、若菜ちゃんだっけ?」
店を出てすぐ、電話で傍から離れた麗美さんを目にしながらセナさんは声を掛けて来た。
「はい」
「身体、大丈夫?」
「…え?」
「何があったかは俺には分かんないけど、1カ月前、恭が俺にピルをくれと言ってきた」
「……っ、」
「やっぱ若菜ちゃん?」
「……」
図星だった所為で思わずあたしの目が泳いだ。
「ひとつ言ってもいい?」
「……」
「恭は周りが思ってる程、悪い奴じゃねーよ。むしろ、苦しんでる」
「何に…ですか?」
「だからそれは俺の口からは言えないって。それにアイツから女に接するのなんてすげー事なの」
「……」
「俺とは正反対」
秘かに笑ったセナさん。
「あの…」
「うん?」
「あたしが麗美さんの所に行って何かが変わるんでしょーか?」
「うーん…どうだろね。でも、プラスにはなると思うよ」
「プラスですか…」
「そう。プラスにね。無理に変わろうとするんじゃなくて、少しづつ変わってくれるはず」
分かんないけど、そう言ったセナさんを少しだけ信じてみようと、後からそう思った。