美奈子と別れた後、あたしはもう一度あのビルに出向かった。
夜の街は煌びやかに明かりが増し、街の色を変える。
視線をゆっくりと真向かいのビルに移す。
だけど、暗い所為かいまいち彼の存在があるのかどうかなんて分からなかった。
時間を確認しようと思って、そっと取り出したスマホが突然震える。
―――…アオ。
「…何?」
「何じゃねーよっ、すんげぇ掛けてたんだけど」
「え?そーなの?」
「お前なぁ…」
うんざりとしたようなアオのため息が電話口から聞こえる。
「で、どうしたの。…アオ?」
「もう何もねぇよっ、」
「は?だったら掛けてこないでよ」
「あのな、お前の雰囲気がおかしかったら気になっただけだけど、その声聞いてりゃなんもなさそうだから、もう用はねぇよ」
「え?…あたし、何か違った?」
「あぁ、来た時からな。まぁ、でも友達と帰ってたから何もねぇのかなって…」
「…友達?」
「あれ?あいつ、友達じゃねぇの?」
…美奈子。
分かんない、友達なのか。
「さぁ…」
小さく呟いたあたしに、アオの溜め息が降り注ぐ。
「あのさ、若菜。…お前、友達を別格に思ってねぇか?」
「さぁ、どうだろね。もう昔の事。関係ないよ」
「だったらいいけどよ」
フーっとあたしの耳に伝わったアオの溜め息。
…アオは、あたしに構い過ぎなんだよ。