「ごめん。ありがとうって、そう伝えといて」

「うん」


結局、美奈子にお金はいいと言われ、店を出た頃にはもう辺りは薄暗くて、街の電灯が光り出す。

このまま、あのビルに行けば夜景が綺麗だろう。


「-――…あ、ごめんなさいっ、」


不意に聞こえた美奈子の声。

先行く美奈子が誰かとぶつかり、美奈子は頭を下げた。


「別に」


そう低く呟いたその相手を目でとられた瞬間、一瞬にしてあたしの目が見開いた。


真正面で見た事はないけれど今、目の前に居るのはあの彼だろう。

あの時と同じ制服。

そして遠くから見た横顔。

この人だろうって言う雰囲気が凄く伝わる。


「あのっ、ほんとにごめんなさい」


何度も頭を下げる美奈子に、あたしはツンツンと美奈子の服の裾を引っ張った。

もういいじゃん。って、思った時。


「痛くねぇから」


そう言った彼の視線が美奈子からあたしに向いた時、何かドキッとするものを感じてしまった。

一瞬にしてスッと視線を逸らし背を向けて行く彼。

そのさっき感じたものは何だったのか、よく分からない衝動に包まれる。


恋愛をするトキメキではなく、ただ単にその瞳が怖かっただけ。


いったい、この人は…