「何?」

「良かったと思って」


そう言った美奈子はイチゴをパクっと口の中に入れる。


「何が?」

「ほら、若菜ちゃんってあまり食べないからさ。食べてくれるかちょっと心配してたんだ」

「あー…そうなんだ」

「だから良かったって」

「これ、凄く美味しいよ。売れると思う」

「そー言うとママ凄く喜ぶと思う。ママさ、料理とか好きだからまたおいでよ」

「…うん」


料理好きな美奈子のお母さん。

あたしの母と全く違う。


それさえも比べてしまうあたしって、どうかしてる。

母の存在を無理矢理消そうとしてるあたしは、どうかしてるのだろうか。


だからと言って、こんな事話しても意味がない。


話したからって、母は何も変わらない。


「ねぇ、あそこって何?」


ストローを咥える美奈子はあたしの言葉で首を傾げた。


「あの階段」


スッと指差す方向に美奈子は視線を向けると、「あぁ…」と小さく呟く。


「うーん…何て言うのかな。賭け事?いや、クラブ?…いや、遊び場」

「は?何?」


曖昧な美奈子の言葉につい眉間に皺が寄った。