「まぁ別にアイツは俺の女でも何でもねぇけど、昔からの付き合いは確かなんすよ。ぶっちゃけ、恭さんが出てくっと乱れるんっすけど――…」

「…昔の事が言いてぇのかよ」


突然遮った恭の声にまたもやドクンと心臓が波打つ。

何の会話かも、何の出来事を話しているのかも分からないけど、アオと恭が知り合いだった事は間違いない。


話の内容からして二人はお互いに知っていて、そして何かがある。


「記憶からは消せないけど、過去は過去っすからね。別に俺も引きずらねぇし…」

「だったら――…」

「だけど、アイツだけは。若菜だけには手ださねーでくれます?」

「…お前、好きなのかよ」

「だったら何すか?恭さんに言う必要すらねーけど。つか、そっちこそアイツの事どー思ってるんすか?

「……」

「言えねぇって事は――…」

「別に何とも思ってねーよ」


吐き捨てられた言葉に何故だか胸が苦しくなった。

少しでも思ってた恭の存在が一気に打ち砕かれたかのように心の奥でガラスの破片が散らばった様に、胸が何だか痛かった。


恭が姿を消したんだろうか。

少しずつ消えて行く足音が完全になくなった時、ドンっとドアに圧し掛かる大きな音とともにドアが揺れた。