これが当たり前の生活になってしまってどれくらい経つんだろうか。
母は呆れたのか、それともあたしの事を空気の存在と思っているのか、何も言ってこなくなった。
むしろ、もう母の顔すら何日見てないのかも分からないし、この家に母が帰って来ているのかも分からない。
誰とも全く口を聞いていなければ外にも出ていない日々。
スマホの充電すらしていないから、もうとっくに落ちているだろう。
…―――ピンポーン…
不意に聞こえた突然の音に身体が軽く弾んだ。
暫くしてもう一度鳴り響く音に思わず息を飲む。
訪問してくるのなんて、アオか、美奈子か、…先生かで。
その誰かしか居ない。
アオだったらいつもと同じに叫ぶだろう。でも、今じゃなんの反応もない。
数秒ごとに鳴り響く音に反応的に身体が動き出す。
玄関まで行くと何気に覗いたドアスコープから見えたシルエットに思わず息が止まると同時に目が見開いた。
素早く顔を離して壁に背をつける。
…なんでここに、恭が?
思っても見ない人物に心臓が素早く焦りだした。
もしかしたら今までずっと来てたんじゃないかって…
出ようか出まいか、なんて事を交互に何度も考えていると、次第に聞こえて来た微かに足後にもう一度視線がドアに向いた。