「全部食えば?」
「はい、食べます。どうせいらないんでしょ?」
「いらね」
「あれだよね。アンタっていい物ばかり食べてるから口が麻痺してんだね、きっと」
「は?つかよ、いい物ばっか食ってたらコンビニなんて行かねーよ」
恭の呆れた声を聞きながら、あたしは椅子を引っ張ってガラス張りの前で座った。
「あー…そっか。けど、何でアンタここに一人で住んでる訳?ほんとに一人な訳?でも、いいよね。羨ましいよ」
「……」
ついベラベラと口を開いてしまった。
なのに恭からの返事は何もなく、口に入れたメロンがなくなると同時に、視線を恭に向けた。
「…ごめん。何でもないから」
ソファーに寝転んでる恭の顔は額に腕を置いてる所為で分からない。
でも、微かに見える口元が小さく動いた。
「別に羨ましがられる事なんか、なんもねーし」
また、どうでもいい様な呟き。
…なんで、そうなの?
あたしにはアンタがセレブにしか見えない。
「あー…でも、あれだね。ここからの景色が凄くて、あのビルに居るのがちっぽけに思うね」
もう一度視線を窓にうつして、遠くの方を眺めた。