「あのとき、泣いて帰ったのはやっぱり彼女には勝てなかったと思って。確かに片想い中だったけど期待はしたけど櫂くんはかっこいいからそれも当たり前なのかなって。でも悔しいからダイエットしてリベンジに来ました」
茉央も俺も開いた口が塞がらない。
「アッハハハ。ダメ。それじゃ櫂がかなり最低な男じゃない。顔がいいからタラシって笑えるんだけど。でそれでも櫂が好きってどんだけあんたドMなのよ」
茉央が腹を抱えて笑い出した。
俺ももう正直限界。
まさかこんな展開になるなんて思わなかった。
「じゃああんた今、櫂の二番目になるつもりで来たの?」
「そんなことさせるわけないだろ。佑衣ちゃんはずっと俺の1番。こんな可愛い子どこにもいない。茉央、もういいだろ?」
「えっ?えっ?」
今度は佑衣ちゃんが動揺してる。
確かに全く話が読めないだろうな。
「はいはい。こんなん戦う気にもならないわ。櫂、別れてあげる。佑衣ちゃん?あげるわ。あたしにはこんなキラキラの恋愛はまぶし過ぎて無理。まあ。これだけはもらってあげる」
下に落とされてたマスコットを払って茉央はカバンにしまった。
「あたしにもそんなキラキラのときがあったのにな。いつの間にか傍観者になっちゃった。今度はあたしをちゃんと大事に好きになってくれる人探すわ。じゃあね」
パタンと扉を開けて茉央は出て行った。
さあ。俺は何から説明すればいいのかな?
「か、櫂くん?私何か間違ったこと言った?」
佑衣ちゃんは動揺しながらなぜか後ずさりしてる。
まったく。この子はどれだけ俺を夢中にさせるんだろう。
「顔がいいから弄んでそうか。へえ。俺って佑衣ちゃんから見てそんな男だったんだ」
「で、でもどんな櫂くんでも大好きな気持ちは変わらないよ」
どんどんと後ろに下がってもう後ろは壁。
「・・・捕まえた」
後がなくなった佑衣ちゃんを引き寄せて抱きしめる。
「櫂くん?」
「遅くなってごめん。佑衣ちゃん、俺は佑衣ちゃんが好きだ。ずっと言えなくてごめん。佑衣ちゃんのことが・・・大好きだよ。だから俺の彼女になってください」
「わ、私でいいの?」
「佑衣ちゃんがいい。佑衣がいいの」
「よ、よろしくお願いします」
そして、そのまま体を軽く離して顔を近づける。
気持ちが溢れるような甘い甘いキスを何度も送った。
「そっか。私すごいとんだ勘違いしてたんだね」
「でも返ってそれが俺を救ってくれたけどね。まあかなり最低男だったけど」
「ごめん。櫂くんモテるからそういう風に思ってた。でもさっき話を聞いて益々カッコ良くて惚れ直した」
帰り道、佑衣ちゃんと自転車に2人乗りしながら俺はことの一部始終をすべて
話した。
とんだ勘違いをされてたけどそれが1番良かったのかな。茉央も俺も救われた。
「なあ、佑衣ちゃん日曜日俺の家に来ない?」
「えっ?」
「ば、バカ違うよ。姪に絵本読んでやってほしいなと思って」
「行く。・・・それだけだよね?」
「それ以上期待します?ならご期待に応えましょうか?」
瑞穂に絵本を読んでほしいし、数学の勉強会も再開したい。
どこかに出かけたりもしたい。
でも抱きしめたいしキスもしたい。
やっぱり君にはプラトニックになれそうもないかな。
「高瀬。おはよ」
「おう」
「良かった。いつもの高瀬だ。でもあの子がまさか高瀬の彼女になるなんて思わなかったよ」
「宮部、お前が笠井しかあり得ないのと同じ。俺も何度も傷つけて泣かせたけどあの子じゃなきゃ無理なんだよ」
「うん。そうだね。誰がなんと言ってもやっぱりこの人じゃなきゃっていうのはある」
「そうそう。だから代わりなんていないよね」
「そうだな。たとえこの先何があったとしても同じ道を進めなくてもきっと今のこの時間はその子しか埋められないんだよな」
「そうそう。たとえ回り道をしても他の人じゃダメなんだよね」
「そうそう。それは思う」
「でもさもしかしたらあたしたちも出会いが違ってたら恋に発展してたのかな?」
「あるかもな。俺、結構お前のこと好きだし」
「あたしも。颯太の次にいい男だと思う」
「まあでも今の関係だからうまくいってんのかもな」
「男女間の友情だよね」
「そう。こんな2人のある日の物語もいいんじゃない?」
「うん。恋愛にはならない2人の物語もいいよね」