その隣にいるのは岩瀬 未彩。


長いロングの髪の毛と大きな二重。華奢な体。


これだけで十分男子を惹きつけるのになぜか彼女は無駄に昔、ギャルがってた。




更にはやたらと彼氏が欲しかったみたいでそれまで結構遊んでたし。




とはいえ実家はお寺ということもありとても厳しく


また彼女もその意思を貫いていたため体の関係はおろかキスすらもさせない

徹底ぶり。



だから遊んでたという表現は違うかな。

多分真実の相手を探してたんだと思う。

そしてその真実の相手が同じクラスの辻宮 隼人。


この男もかなりの曲者で未彩のことが好きなのに失いたくないからと付き合わないで未彩を泣かせた。
当然抗議しまくったけどね。



未彩がこんなやつ好きじゃなかったら


徹底的に罵って再起不能にさせてやろうかと思ってた。




失いたくないから付き合わないなんてそんな理屈が通ると思う?


失いたくないじゃなくて失わない努力をしなさいよ。


あんたなんか認めないって号泣。





ほんとあのときは絶対に認めないって思ってたのに

今は未彩が幸せそうだから認めざるを得ないんだよね。



辻宮も考えを改めたのかほんとに誰にも取られたくない独占欲丸出しで見てて恥ずかしいわ。





まああのモテモテ高瀬櫂くんと


うちのクラスの王子様である寺元央を


トリコにした女の子だから心配になるのは無理ないけど。
高瀬櫂も本当によくモテるんだよね。


甘く爽やかなルックスと声。

すらっと伸びた背。


更には無駄に優しい性格。





こんな最高物件に飛びつかないわけないか。




でも未彩にフラれてから彼女もいないみたいだし。


本当に未彩のこと好きだったんだろうな。




咲紀の友達も高瀬のこと好きだったみたいだけど


あの子じゃちょっとぽっかり空いた高瀬の心の中埋めるのは難しいかもな。




とはいえ、あたしは絶対その役お断り。ちゃんとあたしには彼氏がいますから。






2人の話を聞く前に少しだけあたしは



付き合うまでの日を思い出してた。
「じゃあクラス委員を決めるぞ」





高校入学してまだ数日。


同じ中学の子はいないし心細いな。


そう思ってた矢先の委員決め。あんまり気が進まないけど何かきっかけになるかもと立候補したのは保健委員。



中学のときもやってたしそんなにしんどい仕事もないから無難でいいよね。




「よし。じゃあ保健委員は笠井と宮部な」




笠井くんか。うわ。この人絶対モテる。高校生とは思えない色気があるし顔、かっこいいし。



そう思ってたらやっぱり彼はクラスの人気者になった。



初めて話したのは委員会の集まりの日。クラス毎に並んで座るから当然あたしたちは隣。




「宮部さんって風香って名前なんだ。俺と同じ風ついてるんだな。風同志仲良くしよな」
ほんと名前の通り爽やかででも男らしさも感じられる名前。

笠井 颯太

風同志ってなんだよ。口元が緩む。




「あっ笑った。そっちのがいいよ」




ちゃっかりあたしの心にも爽やかな風吹かせないでよ。好きになっちゃう。




「おーい風、昼飯食った?」






「風、今日保健委員だぜ」




「風、今日めっちゃ風強いな。なんちゃって」





笠井くんはなぜかあの日からあたしのことを『風』(かぜ)と呼ぶ。


自分だって風のくせに。



でも名前きっかけで仲良くなったのはちょっとラッキー。


あたしの思ってた通り笠井くんはやっぱりモテる。



そう。あたしは笠井くんが好き。



だからそんな笠井くんが呼んでくれる『風』は特別扱いみたいな気がして嬉しかった。


あんな噂を聞くまでは。
「颯太って好きな子がいるみたい。しかもね。なんとその子しか名前で呼ばないんだって」




「それって恵美香のことだよね」




「えーっ恵美香しか呼んでないのかな?だとしたら恵美香嬉しい。恵美香も颯太好きなんだよね」




何気無い会話が耳に入ってきた。好きな子しか名前で呼ばない。



私のことは「風」名前でもない。勝手に付けられたあだ名。




確かにモテるけど名前で呼ぶのはあの子だけ。ほんとに?笠井くんはあの子が好きなの?




やだよ。他の人のものにならないで。




あたし、笠井くんに告白する。




神様、おねがい。




あの爽やかな風はあたしだけのものにしてください。
あたしはその日笠井くんを呼び出した。

とりあえず掃除の時間、トイレに駆け込んで髪型を直してリップを塗る。




甘い甘いストロベリーの香りがするリップ。あたしの好きな苺。




魔法をかける。

可愛くなれ。可愛くなれって。

あの子に負けたくない。勝ちたい。

鏡を見直して息を飲んで教室に向かった。

「ねえ。颯太。恵美香と帰ろう」




教室に戻るとあの子が笠井くんの腕に絡みついてる姿が目に入った。




「あ、俺今日用事あるから無理。また明日な」




その腕を解いて笠井くんは笑顔であの子を見送った。

彼女も渋々だったけど諦めたみたいで教室から出ようとあたしの方にスタスタと歩いてきてあたしの横を通り過ぎた。




「あんたみたいなブス、颯太が相手するわけないじゃん」




そんな捨てゼリフとともに。
さっきまでの気持ちが全部崩れる。



『ブス』




あたしがこの世で1番嫌いな言葉。



中学のあたしはすごくひどかった。成長期の食べ盛りで縦には伸びず横にばかり身についてとにかく太ってた。


それにメガネも掛けててデブでブス。




好きな人にも笑われてこの世で1番醜いって思ってた。




そんなとき親戚の叔母さんが『食べたら吐けばいいのよ。私もそうしてる』


その言葉があたしのスイッチになった。

食べたら吐けばいいんだ。

そうすれば身につくこともないもんね。

お菓子もケーキもご飯も好きなだけ食べて吐けばいいんだ。

そうすれば太らない。

それからあたしは食べて吐いての繰り返しをずっと続けた。

肌が荒れようが喉を傷つけて

血が出ようが指を入れて吐くことが


習慣になってやらなきゃいけない義務だと思うようになった。
デブじゃなくなる。ブスじゃなくなる。


そう思って続けるのになんであたし痩せないの?どんどん醜くなってる。



最初は家だけだったのに学校でも吐かなきゃいけない義務が襲う。




そしてとうとう学校のトイレでも指を入れて吐いた。



やめられない。止まらない。

でもそれを止めてくれたのが咲紀だった。




「風香、何やってるの?」




お弁当を食べ終えてすぐに教室から1番遠いトイレに駆け込む。

そしてコトを終えて出たあたしのまえには肩を震わせた咲紀。



ゆっくりあたしに近づいてそっとあたしを抱きしめた。




「こんなことして自分を傷つけても何もいいことないよ。赤ちゃん産めなくなっちゃうかもしれない。もうやめよ」




なんで泣いてるの?あたしただ自分のために自分が綺麗になりたいためにやってるだけ。

咲紀が泣くことなんてないんだよ。