俺様社長は左手で愛を囁く

昨日乗った、社長の車。

翔はもう、仕事に行ってるはずなのに、

私の目の前に、

その車が止まっていた。

・・・

私に気が付いたのか、

運転席から、綾野が出てきた。

「おはようございます、早乙女さん」

にこやかな挨拶に、

私もにこやかに答える。


「おはようございます・・・

あの、社長ならもう出勤しましたよ?」


私の言葉に、

綾野は頷いた。


「もちろん知ってます、

私は今朝迎えに来ましたから」


「・・・じゃあ、なぜここに?」



「もちろん、早乙女さんを迎えに来たんです」

綾野の言葉に驚き、

慌てて否定する。

「ちょ、あの、私は一人でも

仕事に行けますから、早く行ってください。

社長秘書の方が、わざわざ私なんかの迎えなんて、

いいんですよ」
「これは社長命令ですので、

お気になさらずに」


「き、気にしますよ!

社長の車で会社になんていけません。

それくらい、綾野さんにもわかると

思うんですけど?」



「もちろん承知の上です。

会社近くで車を止めますから、

そこからは歩いていかれたらいいと」

そう言うと、

強引に私を後部座席に

押し込んだ。

・・・

どうやら観念するしかない。

このビップ待遇に、

どうしていいか、戸惑うばかり。

・・・

会社近く、

会社の社員達に見つからないような場所で、

綾野は車を止めた。


「・・・ありがとうございました」


「毎朝、お迎えに参りますので」

「けっこう「早乙女さんに、拒否権はないと、

社長から言われてますので、

これからも続けます」
綾野の言葉に、

溜息をついた。

・・・

こんな生活、

いつまで続くのかしら?

私は翔を、好きになる事は、

ないに等しいのに・・・

そう思いながら、

おもむろに、手帳を取り出し、

写真を見つめる。

・・・先輩。

私は社長に、どういえばいいのかな?

・・・

先輩は何も答えない。

写真の中でただ、

私に笑いかけてるだけ…

・・・

パタンと、手帳を閉め、

会社へと急いだ。

・・・

会社にいる間は、

何も考えずに済むから・・・
・・・

社長室。

仕事をしていると、

綾野が入ってきた。


「社長、早乙女さんを

お迎えに行ってまいりました」


「・・・そうか、ありがとう」


「とても嫌がっておいででしたが、

これからも続けてよろしいのですか?」

綾野の言葉に、

やはり嫌がったかと思いながら、

それでも、頷いて見せた。


「もちろん。

アイツのすべてを知っていたいから」


オレの言葉に綾野はクスッと笑う。


「社長の溺愛っぷりは凄いですね?

早乙女さんが社長を好きになっても、

その溺愛は変わらないですか?」



「当たり前のことを聞くな。

女の為に動くことなど、

これが最初で最後だ。

他の女の為に、ここまでするつもりは、

はなはだない」
・・・

今日も、忙しい一日を終え、

時計に目をやると、午後11時。

やっと帰れるが・・・

まさかと思いながら宣伝部へ行くと。

・・・

思わず深い溜息が出る。

やはり。

まだ仕事をしていたのか。

オレは静かに、でも足早に、

彼女の前へと歩み出た。

・・・

オレに気が付いた彼女・・冬美は、

オレを見るなり、目を見開いた。

・・・

「・・・まだ会社におられたのですか?」

「その敬語、止めろと言ったはずだ」

「・・・あ」

・・・

閉まったと言う冬美の頭をグイッとこちらに近づけ、

唇を奪う。

・・・

「止める気になったか?」

「・・・う、ん」

「帰る用意をしろ。

何でこうも、毎日遅くまで仕事をしてる?

無理をしすぎだ。そのうち倒れるぞ」
「私には、私のペースが」

「うるさい」

「・・・」

強引に片づけをさせ、

立ち上がった冬美。

オレはその冬美の手を引き歩き出す。

・・・

「私なんかの相手をして、暇なんだ」

後ろからそんな声が出てきた。

・・・

冬美はオレの気持ちを知ってて

そんな事を言う。

・・・

オレは少しカッとなって、

冬美を廊下の壁に押し付けた。

「…悪いか?」

「…私のリズムをかき乱さないで」


真剣な眼差しでオレに言う冬美。

確かにオレは、

冬美のリズムをかき乱してるかもしれない。

だが、

それでもお前の傍にいたい。

触れていたい・・・

「一分一秒、お前に触れていたい」
オレは冬美を抱きしめ、

何度もキスをする。

・・・

次第に激しくなるキスを、

嫌がっていた冬美だったが、

最後は受け入れていた。

・・・

どれくらい続けていたのか、

唇を離した途端、

冬美はオレの腕の中に倒れこんだ。

…立ってるのもままならない感じで。

・・・

そんな冬美を、

オレは抱き上げた。


「ちょっと、何すんのよ」

真っ赤になった冬美は、

腕の中でバタバタともがく。

・・・

「立ってるのも無理そうだったから、

したまでだ」


「た、立てるわよ、歩けるから、下ろして」


「ダメだ」


「他の社員に見られたら、どうするのよ?」

「オレは気にしない」

「私は気にする」

「口の減らない女だ」
「翔」

「…そんなに恥ずかしいなら、

オレの肩に、顔を埋めてろ」


「・・・///」

・・・

【冬美side】
結局、

お姫様抱っこのまま、

下まで降り、

数はごく少数だったが、

社員にバッチリこの光景を見られ、

私は必死に顔を隠し・・・

車に乗り込んだ。

・・・

翌日、

社内中の噂になるのは必至。

明日、仕事に来たくない衝動に駆られながら、

翔宅へと帰っていった。

・・・

家に帰っても、

お姫様抱っこを止めない翔。

・・・あの、

幸子さんの顔が、赤くなってますが。

・・・

「翔様、食事の用意はいかがなさいますか?」

「ああ、しておいてくれ。それが出来たら、

もう休んでもらっていいよ」

「かしこまりました」
?!・・・・///

二階に行く途中、

幸子さんとバッチリ目が合い、

幸子さんは、私にウインク・・・

その意味は?!

・・・

「翔・・・

いつまで抱いてるつもり?」

私の問いかけに、

微笑んだ翔は、

寝室に入るなり、

私をベッドの上に、そっと下ろした。



「・・・ちょ?!」

・・・

今、この体勢に、

硬直する私。

「ね、ねぇ、翔。

私の上で何やってるの?」


その問いかけに相変わらず微笑んだ翔は、


「もちろん今からお前を抱く」


「へ?!・・・ちょ、ちょっと!

幸子さんに食事の用意頼んだんでしょ?」

私は必死にこの場を回避させる。

・・・が。