俺様社長は左手で愛を囁く

・・・

着いたところは、

隠れ家になりそうな、

でも、凄く高級そうな

フレンチレストラン・・・

先に下り立翔の後に、

私もいそいそとついていく。

・・・

豪華なランチだが、

その美味しさに、

自然と顔が緩む。

「美味しい…」

「そうか・・・よかった。

このレストランのシェフは私に友人だ。

今度はディナーに連れてきてやる。

夜はまた違った料理を出してくれるから」


「・・え、いや、あの」

断ろうとしたが、

翔の目が、断ったりするなよ?

と言うように威嚇してるように見え、

その言葉を呑み込んだ。

・・・

結局、

食事が済むまで、

私はいろんな質問攻めにあい、

大事な用件は一体なんだったのか、

分からないでいた。
時計に目をやると、

午後1時。

午後の仕事を始めないといけない時間。

・・・

私は意を決して、

翔に言った。

「社長、おいしい食事、

ありがとうございました・・・

ですが、そろそろ帰らないと、

午後の仕事が残っています」


「…ああ、そうだな。

だが、最後に質問が」


・・・まだ質問があったのか。

私は小さく溜息をつき、

社長をまっすぐに見つめた。


「どんな質問でしょうか?」


「お前には、想い人がいるのか?」

・・・

その言葉を聞き、

私の顔色は変わる。

出来れば先輩の事は話したくない。


「・・・」

「これが一番重要な質問だ。

ちゃんとウソ偽りなく答えてほしい」
私はゴクリと、

生唾を呑み込んだ。

・・・

これを言ったら、

もしかしたら、翔は、

私から離れてくれるかもしれない。

・・・

そしたら、

私はもう困る事はないだろう。


そう考え、

洗いざらい話すことにした。

・・・

翔はこれを聞いて、

何を思うのかしら・・・


期待と不安の中、

私は話しはじめた。
大学生の頃、

結婚を約束するほど、

愛し合った彼氏がいた。

・・・

彼は私を心から愛してくれた。

凄く幸せで、

怖いくらいだった。

・・・

とある真夜中。

独り暮らしだった私は、

ストーカーらしく男に追われ、

逃げる様に家に帰った。が。

男は帰る事をせず、

私の家の玄関を叩き続けた。

怖くて、怖くて・・・

私は無我夢中で電話をした。

最愛の彼氏に。

・・・

彼はすぐに行くと電話を切った。

・・・

待てど暮らせど、彼は来ない。

私はまだかと彼に電話しようと、

携帯を手に取った瞬間。

彼氏の携帯の着信番号。

私はびくつきながら電話に出た。
「この携帯の持ち主の恋人か

親戚の方ですか?」


突然の質問に、

恋人だと答えた。

・・・

「私、〇☓警察署の者なんですが、

携帯の持ち主の方が事故に合われまして、

総合病院の方に来てほしいのですが」


・・・

その言葉を聞いて、

さっきまでの恐怖は一気に消えていた。

外のストーカーなんて怖くなんかない。

今すぐ、病院に行かなきゃ。

私はカバンを掴み外に飛び出した。

・・・

ストーカーらしき男は、

いなくなっていた。

・・・

私はとにかく走った。

こけて膝を擦りむこうと、

そんな事お構いなしに・・・

・・・

病院についた私は、

ベッドにしがみ付き倒れこんだ。

彼氏は私が病院に付く、

ほんの数秒前に、

返らぬ人となっていた。

・・・

死因は、

相手の運転手の飲酒運転。

・・・

私は誰からもとがめられなかった。

それどころか、

慰められた。

友人も、彼の両親にも…

・・・

でも私は、自分を責めた。

私さえ呼び出さなければ、

彼は死なずに済んだかもしれないのに。

・・・

それ以後、

私は彼を思い続ける事で、

彼を忘れないように・・・

だから、もう恋なんてしない。

・・・

その話を聞いた翔は、

無言だった。

・・・

これでもう、

彼は私から離れるだろう。

私には不釣り合いな人なんだから、

つり合う人と、一緒になってほしい・・・
間もなくして、

綾野が車を回してきた。

・・・

先に翔が車に乗り、

後から私が横に乗り込んだ。

・・・

車内は無言。

・・・

「すみません、社長。

ちょっと大事な電話が入りましたので、

しばらくお待ちください」

・・・

運転席から降りた綾野は、

外で電話を始めた。

・・・

私は無言のまま、

外に目をやった…?!!!

・・・

突然後ろから抱きしめられ、

体をこわばらせた。


「な、何をやってるんですか?」

少し震えた声で、

翔に問いかける。

・・・

翔は私の耳に囁いた。
「さっきの話しを聞いて、

増々、お前の事が放っておけなくなった」



「・・・」



「その彼を思い続けてもいい。

だが・・・

オレがお前の傍にいる事は、

止めないから」



「なっ」



「お前の心を温めてやりたい。

オレのすべてをかけて…

心の氷を溶かしてやる・・・

だから・・・」


ゆっくりと自分の方に、

私を振り返らせた翔は、

切ない目をしていた。

・・・

でも、哀れんでいるような目ではない。

・・・

その目は、

愛おしいものを見つめる目。

「私は彼を・・・ん・・・」

・・・

翔は私の唇を、

自分の唇で塞ぐ。
スモークが貼られている為、

中は見られない。

・・・

優しいキスは少しずつ深くなる…

・・・

「ん・・ぃや・・・」


抵抗してみるものの、

そのとろけるようなキスに、

力が入らない。

・・・

やっと放された唇。

・・・

そのまま翔は私を抱きしめた。

・・・

「今夜また、

お前をさらいに行くから」

・・・

そう言った翔は、

左手で、

私の髪を撫でていた。

・・・

その左手の優しさやぬくもりが、

何ともいえず、

反論することも忘れさせた・・・