「私には仕事は捨てられない。
貴方の仕事の手助けを・・・
どれだけできるかわからないけど・・・
後者を選ぶわ」
・・・
私の答えに、
翔は微笑み、私を抱きしめた。
・・・
「冬美はそちらを選ぶと思った。
本当に仕事が好きだからな?」
「…翔」
「今は、仕事優先だ。
新しい会社はだいぶ進んでるからな…
でも、冬美のエプロン姿も見たい」
「///!!」
翔は左手を優しく私の頬を
触った。
「・・・いつか、
仕事が落ち着いたら、
オレと結婚してくれるか?」
「…お嫁さんに、してくれるの?」
その左手を軽く掴んだ私は、
そう問いかけた。
「当たり前だ。冬美以外、
その役職に就ける女はいないな」
「フフ、役職って、大げさ」
・・・
私は翔を抱きしめた。
・・・
自分の今の体勢をすっかり忘れて。
・・・
「ゴッホン」
「「・・・・」」
・・・
「ノックはしたんですが…
帰る車の用意が」
綾野さんは目を逸らしたまま、
そう告げる。
・・・
ハッと我に返った私は、
今の体勢を思い出し、
立ち退こうとしたのに、
・・・
翔はそれを許さない。
「わかった、すぐに行く」
翔の言葉に、
綾野さんは頭を下げ、
社長室を出ていく。
・・・
「翔」
「なんだ?」
「会社では、これ止めない?」
「冬美も結構大胆なのに?」
「///!!んっもう!」
・・・
こんなラブラブな時間が
来るなんて思ってなかった。
これからは、
ずっと二人、
こんな時間だけが待ってる。
そう信じて。
今夜も、翔だけを想う・・・
「今月いっぱいで、
部長を辞める事になりました」
私は部下たちの前で、
そう告げた。
・・・
もちろん部下たちから、
驚きの声が上がる。
・・・
「辞めないでください」
「もっと一緒に仕事がしたいです」
などなど・・・
嬉しい言葉をたくさんくれた。
・・・
私だって、みんなと一緒に仕事はしたい。
でも、
翔が私を求めてくれてる。
仕事のパートナーとしても、
そして、女としても…
だから、
私はこの道を選んだ。
・・・
この先何が起きようとも、
翔とずっと一緒。
そう思えれば頑張れる。
一か月間は、
仕事の引継ぎやら、
終わらさなければならない仕事に追われ、
バタバタした日々が続いた。
・・・
そんな私を気遣って、
翔は私を毎晩迎えに来る。
その優しさに甘えつつ、
仕事に精を出した。
・・・
そして。
一か月後。
宣伝部での仕事をすべて終わらせ、
いざ、
新会社へ。
・・・
「今日から、ここで働くのね」
私はビルを見上げた。
・・・
今の会社より、
さらに一回り大きいビル。
翔か二つの会社を経営することになるのだが、
私のそんなサポートが出来るのか、
今更ながら、不安になってきた。
・・・?!
握りしめた拳を、
翔が左手で優しく包み込む。
「不安に思うことはない」
「・・・え?」
翔は優しく微笑んでる。
・・・
私の考えは、
翔にお見通しのようだ。
「秘書は綾野が今まで通り、
ずっとメインでしてくれるし、
冬美はその補佐と、
オレのちょっとした仕事の補佐を
するくらいだから、
冬美にも十分出来る仕事ばかりだ。
今迄みたいに、
もう、仕事で残業はさせない。
それをしてたら、前と何も変わらないからな」
「…翔」
「いつも俺の傍で、
見守ってくれればいい」
今までの私の仕事量は、
ハンパな物じゃなかった。
それを翔は知ってる。
だから、今の仕事には、
私の体調を考慮しての、
量に調整してくれたようだ。
そんな翔の心遣いが、
たまらなく嬉しかった。
・・・
翔の為に頑張る。
その決意を再確認した。
・・・
社長室に行くと、
まず秘書室があった。
そこにはデスクが二つ。
私の物と、綾野さんの物。
・・・
そしてその奥に社長室があり、
とても落ち着いてデザインの部屋だった。
・・・
「今日からよろしく頼むな、冬美」
そう言って私を抱きしめた翔。
・・・
私もそっと腕を回し、
「こちらこそ、よろしくお願いします」
・・・
見つめ合った私たちは、
フッと微笑んだ。
「・・・えっと、
失礼してよろしいですか?」
その声は、もちろん綾野さん。
私は急いで翔から離れた。
・・・
「社長、今回この会社を始めるにあたって、
新にうちと契約したいと
言ってる会社が2.3ありまして・・
いかがなさいますか?」
「どの会社だ?」
・・・
翔は綾野さんから書類を受け取り、
目を通している。
・・・
それを見守っていた私と綾野さん。
・・・
「この二つの会社は却下だな。
あまり利益はないと思う。
だが、この一社に関しては未知数だ。
一度会って話がしてみたい。
アポを取ってくれないか?」
「かしこまりました」
・・・
一礼した綾野さんは、
社長室を出ていった。
・・・
「…翔、私も行くね?
・・と、今は社長と、秘書よね?
仕事を覚えないといけないので、
綾野さんの方へ行きます」
そう言って微笑んだ私。
・・・
翔は少しご機嫌斜め。
「今まで通りでいいのに」
「ダメですよ、今は仕事中です」
そう言った私は、ドアノブに手をかけた。
・・・
「…冬美」
「なんですか?」
「さっき言ってた会社なんだが、
会う時、同行してくれるか?」
「・・・わかりました」
・・・
そして、
私は秘書室へと向かった。
・・・
今度会う会社は、
どんな仕事をする会社なのだろう?
それを知る為に、
会うまでに色々勉強しておこう。
そう思いながら。