俺様社長は左手で愛を囁く

そう願わずにはいられない。

・・・

飛行機の中。

疲れてすやすやと眠る冬美。

オレの肩に、

頭をそっと置いた。

・・・

オレはその頭を、

優しく撫でる。

それは必ず左手。

・・・

彼女が汚れないように、

純粋なままでいてほしい・・・

・・・

オレもゆっくりと目を閉じた。

・・・

目を覚ます頃には、

日本も近いだろう。

・・・

これからの彼女との生活を夢見ながら、

幸せな一時を・・・
・・・

そして、

帰国した俺たち。

・・・

これからは幸せな事だけが、

待っている。

・・・

帰る場所は、

オレの家。

・・・

彼女との時間を大切にしたいから、

忙しい仕事のせいにして、

会えなくなるのは嫌だから。

・・・

そして何より、

冬美は無理かもしれないが、

お帰りって、

笑顔で言ってくれたら、


それ以上の幸せはない気がする。

・・・

そうか。

そうしたいなら、

方法は一つ…だな。
冬美の反応が少し怖いが、

言ってみる価値はある。

・・・

そして数日後。

その事を冬美に伝える。

・・・

彼女の反応は、

予想を少しだけ、

超えていた。

・・・

オレが彼女に言った言葉は・・・

・・・

そして、

彼女の出した答えは?
日本に帰り、

早速仕事に戻った私は、

前のように、バンバン仕事をこなしていた。

・・・・

今日も、午後7時になっても、

仕事は終わる事はなく、

私はパソコンに向かって、

集中していた。

・・・

『前より、明るくなった』

『仕事への信念が、より深くなった』

部下たちが口々に言ってる言葉。

・・・

そうね。

確かにその通りだ。

愛する人と、気持ちが通じ合い、

前向きになった私は、

仕事への情熱信念、

すこぶる向上したと思う。

・・・

仕事ばかりで、

翔の機嫌は少し悪いのだけれど、

それは目を瞑って無視・・・

・・・

そして、

翔と繋がったからこそ、

園田先輩への愛情は、

半減してしまったかもしれないけど、

今もちゃんと、想い続けてる。
翔もその事は知ってる。

彼は私の事を考え、

その事は私に任せると、

言ってくれてる。

・・・

「早乙女さん」

「・・・はい?」

・・・

宣伝部の入り口に立っている

綾野さんに声をかけられた。

私がそちらを向くと、

綾野さんは優しく微笑んだ。

・・・

「社長がお呼びです。

一緒に来ていただけますか?」

「・・・どこへ?」

「もちろん社長室ですが?」


「・・・わかりました」

・・・

社長室に呼び出すなんて、

一体何の用事なのかしら?

不思議に思いながら、

綾野さんの後ろをついていった。
「社長、早乙女さんを連れてきました」

「そうか、通して」

・・・

綾野さんは、社長室に入るよう促す。

・・・

私はそれに従って、

中に入ると、

綾野さんは社長室のドアを

静かに閉めた。

・・・

私は翔が座ってるソファーの向かい側に。

でも、翔は自分の方に、

手招きした。

・・・

私が真横に立つと、

「ここに座って?」

と指をさす。

・・・エ?!

そんなところに座れと?

真っ赤な顔で躊躇した私。

だって・・・

そこは、翔の膝の上。

冗談きついって。

・・・が。

そんな私にはお構いなしに、

自分の膝の上に私を座らせた。
「ちょ、ちょっと///!

恥ずかしいから、下ろして」

そう言ってるのに、

翔は知らん顔で、

・・・

「今ここには俺達だけだ。

何が恥ずかしい?」

・・・二人きりでも、

恥ずかしいものは恥ずかしいのよ!

・・・

「翔・・ぁん・・・何してんの?」

・・・

こんな所で、

しかもこの体勢で、

濃厚なキス。

・・・

理性を保つのに必死。

・・・

呼び出した理由は、

まさか・・・これ?

「翔ってば・・」

「冬美に二つの選択肢をやる」

「・・・え?」

唇を離した翔が、

突然そんな言葉を言い放つ。

当然、私には意味が分からない。

それでも翔はどんどん話を進めていく。

「一つ、オレと結婚して、

専業主婦になるか」


「・・・は?」


「二つ、宣伝部部長を辞め、

オレの右手兼秘書になって、新たな会社を

一緒に担う。」



「・・・はあ?」


・・・

突然の質問に、

当然驚き、目を見開いた。

翔は私の反応を、予想していたのか、

さほど驚きもせず、

私を見つめていた。

・・・

そんな事を急に言われても、

今のポストも仕事内容にも、

十分満足してるし、生きがいを感じてる。

・・・

「このまま宣伝部部長って言う枠は、

用意されてないの?」

そう、それが一番いい。

もちろん、もう30歳。

結婚もそれなりに考えてる。
だからと言って、

付き合い始めたばかりの翔と、

すぐに結婚なんてまだ考えていない。

結婚はとても大事な事。

だからちゃんと愛を育んでからでも

遅くはない。

・・・

「その選択枠はない」

「・・・うそ」


「ウソじゃない。

現に、綾野にはもう次の部長候補を

探してもらってる。

2,3人は目星がつてるらしいから、

その中から選ぶだけだ。

…専業主婦は嫌か?」


「イヤって言うか・・・」

別に嫌じゃない。

でも、仕事人間だった私から

仕事を取ると、何も残らない気がする。


・・・

「じゃあ二つ目は?」

・・・

新しい会社のパートナー兼秘書。

・・・

その方が、

私には合ってるのかもしれない。