俺様社長は左手で愛を囁く

「オトシモノッテ?」

・・・

「オトシモノは、

私の心です・・・

貴女の所に、私の心を

置いてきてしまっていた」



「・・・」



「貴女の事が、

忘れられないのです…

貴女の顔が目に焼き付いて、

離れない・・・

貴女が恋しくて・・・

夜も眠れない・・・」



その言葉が、

心に突き刺さる。


「私は、

私には‥‥

翔が・・・・」



「そんな事は分かってます・・・

神宮寺社長が愛するただ一人の女性だって事。

それでも、貴女が欲しい・・・

貴女をここから連れ去ってしまいたい」


「…ダメ!」
そんなのダメに決まってる・・・


私は翔を愛すると決めた。



貴方は、園田先輩じゃない!


・・・

貴方は赤の他人・・・







・・・・・


「そこでなにやってる?」


「「・・・」」


・・・


抱きしめられた腕の中で、

私の目に映ったのは、

今にも泣き出してしまうんじゃないかと言うほど、

悲痛な顔をした翔の顔だった。
…違う。



違うの・・・



私が愛してるのは、この人じゃない。



・・・

貴方なの…翔。



そう心の中で呟いても、

翔の耳には届かない・・・

そんなの分かってるのに、

声を出すことができなかった・・・
秀明を拒んでる冬美を見たんだ。

・・・

秀明は、

冬美の好きなあの先輩じゃないと、

きっとわかってるはず。

それを目撃したのに、

もしかしたら、

冬美にふさわしいのは、

秀明じゃないのかと、

どこかで思う自分がいた。

・・・

冬美をこの手で幸せにしてやりたい。

亡き人のことを思い続ける彼女の、

支えになってやりたいと、

心から願った。

今もその気持ちに寸分の狂いもない。

・・・

だが、

体は、自分の意志に反し、

秀明と冬美に背を向け、

その場から立ち去る自分がいた。

・・・

・・・

家に帰っても、

冬美の事が、頭から離れない。

・・・

ずっと考え続け、

ふと、

時計に目をやると、

午前0時をまわっていた。

・・・

冬美は帰ってこない。

・・・

秀明の元へ行ってしまったんだろうか?

そう思うと、

胸が張り裂けそうなほど、

苦しかった。

・・・

その胸のつかえを取ろうと、

リビングへ下り立った俺は、

そのソファーに、人影を発見した。

・・・

加藤さん・・・じゃ、ない。

・・・

その後ろ姿は、

オレの想い人に、間違いなかった。

でも、

何と声をかけたらいいか、

しばらく、その後ろ姿を見つめていた。
・・・

ダメだ。

冬美に触れたい。

その衝動に駆られ、

彼女を後ろから抱きしめた。

・・・・?!

彼女の息遣いが

荒い事に気が付いた。

「冬美?」

・・・

顔を覗きこむと、

真っ赤な顔をして、

額には汗をかき、

意識朦朧とする彼女・・・


「しょ・・う」

今にも消え入りそうな声で、

オレの名を呼ぶ。

そんな冬美の瞳から、

一粒の涙が落ちた。

・・・

その涙は、

苦しさからなのか。

はたまた別の物なのか・・・

だが、今は、

そんな事を考えている暇はない。

彼女を抱きかかえ、

車に乗せたオレは、

病院に急いだ。

・・・

彼女の無事を、

何度も祈りながら…
・・・

その晩は、あまりに高熱だった為、

管理入院となった。

オレは、

冬美の傍から一歩も離れなかった。

何度も汗を拭きとり、

彼女の手をそっと包み込んでいた。

・・・

朝。

目が覚めると、

熱はだいぶ下がったのか、

静かな寝息を立てながら、

冬美は眠っている。

深く溜息をついたオレは、

冬美の頭を優しく撫でた。

・・・

「・・翔」

「・・ゴメン起こしたか?」

冬美は首を振る。

オレは微笑み、もう一度優しく頭を撫でる。


「・・翔、あの」

「何も言わなくていい。

昨夜の事が、冬美の答えなら、

オレから離れてもいい・・・

荷物はすべてうちにあるからな・・・

引っ越し場所が決まるまで、うちにいろ・・」
「翔、違うの」

そう言って起き上がった冬美を、

ギュッと抱きしめた。

・・・

心ではそんな事、

これっぽっちも思ってなんかない。

あんな男に、冬美をやるなんて、

嫌なんだ。

・・・

だが、

それで冬美が幸せになれるなら・・・





「オレはもう・・・

冬美を愛してない」





心とは真逆の言葉を、

冬美に言ってしまった。

これがサヨナラの言葉。

・・・

冬美、オレはお前を、

今も愛してる・・・

そっと、冬美から離れたオレは、

それ以上何も言うことなく、

病室を出ていった。