「これ、見たことある?」


男がかざしていたのは、新作の映画だった。

ストーリーは、ブロードウェイのミュージカルそのまま。

役者だけがハリウッド俳優であり、設定、劇中歌、というかセリフが全て歌。

世界各国でヒットを飛ばし、アカデミー賞の候補作品でもあるというから、わざわざ劇場まで足を運んでみた作品。

日本でも例外なくヒットした。


「ええ、見ましたけど」

「どうだった?」


サングラスの下の素顔はうかがえない。

なぜそんなことを私に聞くのか、理解不能。

これがわけのわからない親父だったら無視だが、サングラスに隠れているとはいえ、かなりのイケメンだと思われる。

サングラスの下の素顔を想像するのはこっちの勝手だ。

思想の自由、万歳。


「どうだったかって……、劇場で見たときはみんな泣いていましたよ。 

感動大作らしい映画なんじゃないですか?」


私の答えに満足しなかったのか、男が少し肩を落とした。


「できれば、君がどう思ったか聞きたいんだけど……」

「あの、私はここの店員でも何でもないんで……」

「でも、見たことはあるんだろう?」


私が頷くと、彼は再び同じ質問を繰り返した。


「君は、この映画のことをどう思ったの?」


私は迷った。

実は、この映画がそこまですぐれた作品だとは思わない。

確かにストーリーは感動的であったし、映像もきれいだった。

ただ、ミュージカルをそのまま映画にするのはどうだろうか。

映画には映画にしか出せない魅力があり、ミュージカルにはミュージカルの良さがある。

生でパフォーマンスを見るからこそ活かされるミュージカルの良さが、スクリーンで見ることによって半減してしまっている気がした。