「あ、あの……」

「もしかして、宇野さん?」


私は何も言えなかった。

緊張してるのか、何を言っていいのか分からない。


「待っていたよ、電話。 

僕の手伝い、引き受けてくれる?」

「そのつもりです。 

でも、私は本当にプロでも何でもないので……」

「いいんだよ、それで。 

映画を見るのはプロじゃない」


よくよく考えてみれば全く意味の分からない励ましだが、それでも藍川の声だとその通りである気がした。

さすが、ありとあらゆるコマーシャルに出演しているだけある。


「実は、今はホテルに泊まってるんだ」


彼は私にホテルの名前を伝え、知っているかどうかを聞く。

そのホテルは、有名な外資系のホテルだった。

結婚式を挙げるならここ、的なイメージの強い高級ホテル。


「フロントに、チャットウィンに呼ばれてきた、と言ってくれれば案内してもらえると思うから」

「チャットウィン?」

「僕の本名だよ」


そうか。

藍川雅之はカナダ人の父親と日本人の母親を持つハーフだ。

散々ググったから、今では大体のプロフィールは把握している。

しかも、父親は世界的に有名なコメディアン。

母親は日本を代表する女優。

芸能一家の生まれというわけだ。


「それで、いつ来られる?」

「今は講義もないですし、いつでも……」