藍川は小さくため息をついてからパッケージを棚に戻し、再びゆっくりと歩きはじめた。


「僕だってそうだ。 

今は良くても、そのうち飽きられてしまう。 

今のマネージャーが選んでくるのは流行にのったものばかりだ。 

個性的な作品を持ってこない」

「でも、売れるんならいいんじゃないですか?」

「つまらないんだよ。 

イメージが定まるのも嫌なんだ」


確かに、藍川の言っていることも一理ある。

今のテレビ番組や映画は、どれも同じような番組ばかりだ。

しかしそれは数字が取れる番組、又は興行収入があがるのが確実であるから。

危ない橋を渡り、人気を落とすよりはいいのではないだろうか。

しかも、もっと根本的な問題もある。


「それって、もっとマネージャーさんと相談した方が……」


しかし、彼は声をひそめて言った。


「あの人とはそりが合わなくてね」

「合わない、って……」

「じゃ、連絡待ってるからね」

「え、ちょっと待ってくださいよ」


私は、言うまでもなく慌てていた。

というよりは、状況が全く読めないという方が近いだろうか。

私の声と気持ちが届いたのかは定かじゃないが、彼はサッと振り向いて私に告げた。
「あまり他の子に話さないでくれ。 

その番号も本物だ。 

ご家族ならともかく、みだりにこの話をしないでくれるとありがたい」

「はぁ……」


サングラスをかけた彼は、口元をゆるませて微笑んだ。

イケメンオーラ、全開。

藍川は片手をあげると、大股で歩き去って行ってしまった。

とめる間もない。

藍川に手渡されたカードを片手に、レンタルビデオ店に取り残された私。

あっけにとられている間に、藍川は店の中から姿を消してしまっていた。